- ディズニー・ユニバーサル・ワーナー・ブラザースが、著名キャラクターの無断生成を理由にMidjourneyを著作権侵害で提訴
- Midjourneyは「スタジオ自身も映画制作でAIを内部活用しているはず」と主張し、業務記録の開示を法廷で逆要求
- スタジオのAI利用が証明されれば業界慣行の先例となり、知的財産訴訟における透明性ルールを問う重要判例になりうる
訴訟の構図と背景
ウォルト・ディズニー、ユニバーサル、ワーナー・ブラザースの3社は2025年、画像生成AIサービス「Midjourney」を著作権侵害で連邦裁判所に提訴しました。争点は、MidjourneyのAIモデルがバート・シンプソンやダース・ベイダーなど、各スタジオが排他的な権利を持つキャラクターを、許可なく生成できる点です。
スタジオ側の主任弁護士デイビッド・シンガーは、訴訟の目的を明確に線引きしています。「AI技術の停止やMidjourneyの事業閉鎖を望んでいるわけではない。求めているのは、許可なく著名キャラクターを複製・配布する行為の停止だ」と述べており、AI全般を敵視する訴訟ではないと強調しています。著作権保護とAI技術の共存を模索する業界全体の流れと、この立場は軌を一にしています。
Midjourneyの逆要求
Midjourneyはこの訴訟に対し、受け身で応じるだけでなく積極的な反論戦略をとっています。同社は裁判所に対して、スタジオ側に求める証拠開示の範囲を拡大するよう申し立てました。担当判事が当初「消費者向けのビデオや画像」に限定していた開示範囲を見直すべきだと主張し、スタジオが映画やテレビ制作の過程でAIモデルを内部活用しているかどうかを示す業務記録の提出を求めています。
Midjourneyは「スタジオは、自分たちが訴えているまさにそのことを舞台裏で行っているかどうかを明らかにする文書を隠している」と述べ、スタジオが証拠を不公正に選別していると批判しています。具体的には、ストーリーボードの制作や企画段階のビジュアル構想にAIツールを使用しているのであれば、それは「AI生成コンテンツの業界慣行」を示す証拠になると指摘しています。スタジオ自身がAI生成画像を業務に取り込んでいるなら、著作権侵害の被害者であると同時に類似の行為者でもある可能性が浮上します。
この要求に対しスタジオ側は、「釣り探査(fishing expedition)」と反論し裁判所に却下を求めています。証拠開示の範囲をどこまで認めるかが、今後の審理を左右する重要な局面です。
この構図が重要な理由
Midjourneyの逆要求が法的議論として注目される背景には、「クリーンハンズの原則」と呼ばれる法理があります。これは「自ら不正を行っている者は、衡平法上の救済を求めることができない」という考え方で、スタジオが著作権侵害を問題視しながらも自社でAIを使って類似のコンテンツを制作しているとすれば、訴訟の正当性に影響を与える可能性があります。
ハリウッドではすでにAI活用が加速しています。Google DeepMindとA24が研究提携を結び、映画制作者のフィードバックを通じて映像AIを進化させる取り組みが進んでいます。こうした事例が示すように、AIを訴訟で批判するスタジオが内部でAIを一切使用していないと断言するのは難しい状況です。
もしMidjourneyの要求が認められ、スタジオのAI利用実態が法廷で明らかになれば、それはエンタメ業界全体におけるAI利用の透明性ルールに関する先例となりえます。開発者・法務担当・コンテンツ制作者の全方位に対して、「AIをどこまで使っているかを開示しなければならないか」という問いを突きつける判例になるでしょう。
今後の展望
この訴訟は、AIと著作権をめぐる法的整備が世界的に急務となる中で、「AI利用の透明性」という問題を特に鮮明にしています。証拠開示の範囲を拡大するかどうかは担当判事の判断に委ねられており、その結果はMidjourneyとスタジオ間の個別の争いを超え、企業がAI利用をどこまで法的に開示する義務を負うかという問いに直結します。
Midjourneyが「相手のAI利用実態」を訴訟戦略として活用しようとするこのアプローチは、AIをめぐる法廷闘争が単純な侵害か否かの二項対立を超え、より複雑な段階に入っていることを示しています。AIを訴える側と訴えられる側の境界線がにじむ中で、企業内部のAI利用をどこまで透明にするかというルール形成が、今後の業界標準を左右することになるでしょう。
