- Jeff Dean氏、Sanjay Ghemawat氏、Quoc Le氏、Oriol Vinyals氏というGoogle中核の4人が同社を退社し、新会社Discovery Loopを設立した
- Discovery Loopは実験プロセス全体をAIで自動化し、大規模な計算資源で科学的発見の量と質を同時に高めることを掲げる公益企業として発足した
- 出資はRadicalとKhoslaが主導し、Kleiner PerkinsやLightspeedのほか、古巣のAlphabet自身も参加する異例の構図となった
Google中核の4人が退社
米TechCrunchは2026年8月5日、GoogleでAI開発の中心を担ってきた研究者たちが同社を離れ、独自のスタートアップを立ち上げると報じました。新会社の名前はDiscovery Loopで、科学研究そのものをAIで自動化することを目指します。
中心人物は、新会社でCEOを務めるJeff Dean氏です。同氏は1999年からGoogleに在籍し、TechCrunchによれば同社の30人目の従業員でした。検索の根幹を支えるクロールやインデックス作成、クエリ処理といった基盤システムの構築に関わり、近年はGoogle Geminiのマルチモーダルモデルや初期のAI研究で主導的な役割を果たしてきた人物です。
Dean氏はGoogleの主任科学者(Chief Scientist)として長年AI部門を率いてきたことでも知られます。分散処理の枠組みMapReduceや機械学習ライブラリTensorFlowの開発を主導した実績があり、業界内での影響力は大きい存在です。
共同創業に並ぶ実力者
Dean氏とともに退社し、共同創業者となるのは3人の研究者です。1人目のSanjay Ghemawat氏は、Googleのトップエンジニアであり上級フェロー(Senior Fellow)を務めてきた人物で、Dean氏とは長年にわたり基盤技術を共同で設計してきた盟友にあたります。
2人目のQuoc Le氏は、TechCrunchによればGoogle Brainの創設メンバーの一人で、主要なAI研究者として知られます。3人目のOriol Vinyals氏はGoogle DeepMindの上級研究員で、これまで大規模モデルの研究開発を牽引してきました。
いずれもGoogleのAI研究を第一線で支えてきた顔ぶれです。これだけの実力者が同時期に退社する事態は、Googleにとって人材面での打撃が小さくないことを示しています。
Discovery Loopの狙い
Discovery Loopが掲げるのは、AIを使って科学研究のスピードと効率を根本から変えることです。同社は、大規模な計算資源を活用した高度なAIシステムを開発し、実験プロセス全体を自動化することでイノベーションの速度と効率を根本的に変革すると説明しています。
ここで鍵となるのが実験ループという考え方です。仮説を立て、実験を行い、結果を分析し、次の仮説へつなげるという研究の一連の流れを、人手を介さずAIが回し続けます。数千件の実験を同時に走らせることで、研究の規模を一気に引き上げる構想です。

Dean氏はこの狙いについて、実験の量と質の両方が高まり、それが科学的なブレークスルーと進歩につながると述べています。創薬や材料科学など、試行回数が成果を左右する分野での応用が想定されます。計算資源を大量に投じてAIに研究を代行させる発想は、AIを経済の基盤に据えようとするOpenAIの「豊富な知能」構想とも通じる、大規模計算を前提とした潮流の一つといえます。
異例の出資構図
Discovery Loopは、営利と公益を両立させる公益企業(パブリック・ベネフィット・コーポレーション)として設立されました。株主の利益だけでなく、定款に定めた社会的な使命の追求を経営に組み込む会社形態です。
資金調達では、Radical VenturesとKhosla Venturesがリード投資家を務めます。さらにKleiner Perkins、Lightspeed、Doerr Capitalに加え、Googleの親会社であるAlphabet自身も出資に参加しました。調達額は公表されていません。
退社した幹部の新会社に、古巣のAlphabetが出資するという構図は異例です。人材の流出でありながら、Googleは新会社が生み出す成果とのつながりを一定程度確保する狙いがあるとみられます。
Googleと業界への影響
Dean氏らの退社は、GoogleのAI開発体制に少なからぬ影響を及ぼします。Gemini開発や基礎研究を支えてきた中核人材が抜けることで、体制の再編や後任の育成が課題となります。
一方で、トップ研究者が大企業を離れて独立した企業を興す動きは、近年のAI業界で相次いでいます。潤沢な計算資源を必要とする研究を、機動力のあるスタートアップの形で追求する流れが強まっているといえるでしょう。
Discovery Loopが科学研究の自動化という難題にどこまで踏み込めるかは、現時点では未知数です。ただ、これだけの顔ぶれと資金が集まった事実そのものが、AIによる研究加速への期待の高さを物語っています。
