- 元Anthropicの研究者Behnam Neyshaburらが設立したAIラボMirendilが、Google Cloudと1億ドル超の複数年契約を締結しました
- 契約によりGoogle製のTPUとNvidia製GPU、マネージド訓練クラスターを確保し、2026年6月には評価額10億ドルで約2億ドルを調達済みです
- 自ら改善を繰り返す「再帰的自己改善AI」で、医学や材料科学など科学研究そのものの自動化を目指しています
1億ドル超の複数年契約
AI研究所のMirendilが、Google Cloudと1億ドル(約150億円)を超える複数年契約を結んだと、TechCrunchが2026年8月6日に報じました。この契約でMirendilは大規模なAIモデルの学習に必要な計算資源を確保します。
Mirendilは元Anthropicの研究者が立ち上げた新興企業です。設立からまだ日が浅いスタートアップが、100億円を超える規模のインフラ契約をクラウド大手と結んだ点に、現在のAI開発競争の激しさが表れています。
同社は2026年6月下旬に評価額10億ドル(ユニコーン相当)で約2億ドルを調達したばかりで、今回のGoogle Cloud契約はその調達額のおよそ半分に相当します。集めた資金の多くが計算資源の確保に振り向けられている構図です。
確保した計算資源の中身
今回の契約でMirendilが利用できるのは、Google独自開発のAIチップであるTPU(Tensor Processing Unit)と、Nvidia製のGPU、そしてこれらを束ねたマネージド訓練クラスター(学習環境)です。1社の契約で異なる種類のチップを組み合わせられる点が特徴です。
共同創業者のHarsh Mehta氏は「Googleは複数種類のチップを提供している。この柔軟性のおかげで、私たちは最終的に処理内容とチップを自由に組み合わせられる」と述べています。処理の内容ごとに最適なチップへ割り当てる考え方です。
Google Cloud側でインフラを統括するAmin Vahdat上級副社長は「AIの進歩はもはやチップ単体の性能だけの話ではなく、システム全体をどう連携させるかが問われている」とコメントし、インフラ全体を提供する意義を強調しました。
再帰的自己改善AIとは?
Mirendilが掲げる中核技術が再帰的自己改善(recursive self-improvement)です。これは、人間が細かく手を加えなくても、AI自身が試行と学習を繰り返して自らの性能を高めていく仕組みを指します。
CEOのNeyshabur氏は「問題を与えると時間とともに解き続け、どんどん良くなっていく自己改善型のAIを実現できる」と説明します。人間の科学者が経験を積んで知識を蓄えていく過程を、AI上で再現しようとする発想です。

図に示すように、仮説を立てて実験し、その結果から学び、次の性能向上につなげるという循環を自動で回すのが狙いです。この循環を人手を介さず高速に反復できれば、研究の速度を大きく引き上げられると同社は見込んでいます。
科学研究の自動化を狙う
Mirendilが目指すのは、この自己改善型AIを科学研究そのものに応用することです。対象領域として医学、生物学、材料科学が挙げられています。
Neyshabur氏は具体例として「アルツハイマー病について、研究を続けながら自らの知識と性能を高め続けるAIシステムをどう作れるか」という問いを掲げています。特定の難題に的を絞り、AIが継続的に研究を進める姿を思い描いています。
元Google幹部が科学研究の自動化を掲げて独立したDiscovery Loopの設立など、大手の技術者が科学発見の効率化に挑む動きは相次いでいます。Mirendilもこうした潮流に連なる存在といえます。
計算資源争奪戦の象徴
今回の契約は、Mirendilにとっては先端モデルの開発に不可欠な計算資源を確保できる利点があり、Google Cloud側にとっては将来の企業向け展開を見据えたフロンティア企業との関係を築ける利点があります。両者の思惑が一致した形です。
Google CloudはTPUを競合のAIラボにも幅広く提供しており、モデル開発企業とインフラ提供企業の境界は入り組んでいます。競合関係にある企業同士が計算資源を通じて結び付く構図は、資金と計算資源をめぐる争奪戦が業界全体に広がっていることを示しています。
設立間もないスタートアップが数百億円規模の資金と計算資源を短期間で確保する事例は、AI開発の主戦場が研究の質だけでなく資源の調達力にも移りつつあることをうかがわせます。Mirendilが再帰的自己改善という難題で成果を出せるかが、次の焦点となります。
