- AlphaFold開発でノーベル化学賞を受賞したジョン・ジャンパー氏が、約9年間在籍したDeepMindを退職しAnthropicへの移籍を発表した
- ジャンパー氏はAnthropicで生命科学AI研究を推進していく意向を示しており、同社の科学分野への本格参入を示す動きとして受け止められている
- 同時期に他の著名研究者もDeepMindを離れており、AI業界全体の人材獲得競争が研究水準の最高峰にまで達していることが浮き彫りになった
AlphaFoldの功績とノーベル賞
2026年6月20日、タンパク質構造予測AIシステム「AlphaFold」の主要開発者であるジョン・ジャンパー氏が、Google DeepMindを退職しAnthropicへ移籍することを発表した。ジャンパー氏は2017年にDeepMindに入社し、約9年間にわたって同社の研究を主導してきた。
AlphaFoldは、アミノ酸配列情報からタンパク質の3次元構造を高精度で予測するAIシステムであり、数十年来の生物学・創薬研究における難問「タンパク質折り畳み問題」を実用的に解決した。この成果が評価され、ジャンパー氏はDeepMind CEOのデミス・ハサビス氏およびワシントン大学のデビッド・ベイカー氏とともに2024年のノーベル化学賞を共同受賞した。AlphaFoldが公開したタンパク質構造データベースは2億種以上の構造を収録しており、世界中の研究機関が新薬開発や疾患メカニズムの解明に活用している。
移籍の背景とAnthropicでの展望
ジャンパー氏はX(旧Twitter)への投稿でDeepMindを離れることを報告し、ハサビス氏がPhD取得から6ヶ月でAlphaFoldチームのリーダーを任せてくれたことへの感謝を述べた(同氏のX投稿より)。具体的な移籍動機は公式に明らかにされていないが、Anthropicで生命科学AI研究を推進していく意向を示しており、同社の科学分野での研究活動に貢献していく立場となる見通しだ。
Anthropicは現在、Claudeシリーズの開発で急速に存在感を高めており、医療・科学分野でのAI応用にも積極的に取り組んでいる。ノーベル賞受賞者レベルの研究者の参加は、同社が生命科学を次の重要な研究領域と位置付けていることを示す動きとみられる。Bloombergの報道によれば、ジャンパー氏はAlphaFold研究に加えGoogleのコーディングツール開発にも深く関わっていたとされており、AIの応用領域を幅広くカバーする知見を持つ。OpenAIもMolecule.oneと連携し薬化学反応の改善にAIを活用する取り組みを発表しているなど、生命科学分野でのAI活用競争は各社が参入を加速させている段階にある。

DeepMindからの人材流出と競争の激化
今回の移籍は孤立した事例ではない。ジャンパー氏と前後して、DeepMindから他の著名研究者も組織を離れる動きが報じられており、Google DeepMindからの人材流出傾向が業界の注目を集めている。AI開発競争が激化する中で、Anthropic・OpenAI・Meta AIなどの有力プレーヤーが最上位クラスの研究者を確保するため、待遇や研究環境の面で激しい競争を繰り広げている構図が鮮明になってきた。
ノーベル賞受賞者という最高峰の研究者が競合他社に転じたことは、DeepMindにとって研究ブランドへの影響も否定できない事象である。一方でAnthropicにとっては、大規模言語モデル(LLM)分野にとどまらず生命科学・科学AIの領域でも実績を持つ人材を獲得したことを意味し、今後の研究開発戦略における重要な布石とみる向きがある。
業界への示唆
ジョン・ジャンパー氏の移籍は、AI業界の人材獲得競争が研究水準の最高峰にまで達した現状を端的に示している。AlphaFoldがタンパク質科学を変えた開発者が次のフロンティアをどこに見ているかは、Anthropicの生命科学AI戦略に直接反映されていくことになる。AI研究者の移籍がそれ自体ニュースになる時代において、各社がどのような研究環境と機会を提供できるかが、業界全体の競争力を左右する重要な要因として改めて浮き彫りになっている。
