- 塩野義製薬は社内向け生成AIの回答正答率を、モジュラーRAGの導入により従来の約50%から90%へと大きく改善した
- 意図理解、ツール選定、データ収集、回答統合の4段階に処理を分け、質問の内容に応じて検索ツールを使い分ける設計を採用した
- 機密データはExcelの管理台帳で参照範囲を制御し、AWS上でモデル更新やリスク評価を一元管理する仕組みを整えた
塩野義製薬が正答率を90%に
製薬大手の塩野義製薬が、社内向けに構築した生成AIの回答正答率を約50%から90%へ引き上げた事例を公開しました。2026年6月に開催されたAWS Summit Japanの講演で、責任ある生成AIの導入とガバナンスへの取り組みとして紹介されたものです。
製薬業は臨床データや開発情報など、外部に出せない機密性の高い情報を大量に扱います。こうした規制産業で生成AIをどう安全に業務へ組み込むかは、多くの企業に共通する課題です。塩野義の事例は、その具体的な解決手法を数字とともに示した点で参考になります。
なぜ正答率は50%だったのか
当初のシステムは、社内文書を対象にしたRAG(Retrieval-Augmented Generation、外部データを検索して回答に反映する手法)で構築されていました。しかし回答の正答率は約50%にとどまり、実務で使うには不十分な水準でした。
原因は主に2つです。1つはキーワード一致に頼った検索の精度不足で、質問の意図に合った文書を十分に拾えませんでした。もう1つは、関係のないデータがノイズとして混ざり込み、事実に基づかない回答(ハルシネーション)を生む要因になっていた点です。
モジュラーRAGの4段階とは
塩野義はこの課題に対し、処理を段階ごとに分割するモジュラーRAGを採用しました。ユーザーの質問を一括で処理するのではなく、意図理解、ツール選定、データ収集、回答統合という4つの段階に分けて順番に進めます。

中心となるのがツール選定の段階です。AIエージェントがユーザーの意図を読み取り、テキスト検索を担うOpenSearch、ファイルを直接読み込むツール、機密データ台帳を参照するExcelツールの中から、質問に応じて適切な手段を選びます。質問ごとに最適な情報源を切り替えることで、関係ないデータの混入を抑え、回答の精度を高めました。
Excel台帳で認可を制御
機密データの扱いで鍵となるのが、Microsoft Excelで作成した管理台帳です。この台帳が、AIが参照してよいデータの範囲を定義する認可の役割を担います。AIは台帳を読み込んで必要なデータだけを絞り込むため、権限のない情報へアクセスすることを防げます。
さらにAWS上には、AIの利用状況やモデルのバージョン、リスク評価を一画面で把握できる監視ダッシュボードを設けました。新しいモデルを取り入れる際も、AWSの技術担当とリスク管理の担当者がセキュリティ面を確認したうえで安全に切り替えられる体制を整えています。
企業のAI導入への示唆
この事例が示すのは、生成AIの精度改善が必ずしも高性能なモデルへの乗り換えを必要としないという点です。処理を段階に分け、参照範囲を明確に管理するだけで、既存の仕組みのまま正答率を大きく引き上げられます。
国内でも、スクウェア・エニックスのゲームQA自動化のように、AIエージェントを社内業務へ組み込む動きが広がっています。機密データを扱う規制産業においても、台帳による認可制御とモジュラーRAGの組み合わせは、他社が自社へ応用しやすい実践的な指針となりそうです。
