- Appleは営業秘密訴訟の調査対象を、当初の2人から元従業員11人超へと大幅に拡大したと明らかにしました
- 元従業員が面接前に未発表製品のスクリーンショットを撮影したなどと主張し、AIデバイス開発の差止請求にも踏み込みました
- OpenAIは「営業秘密は保有しておらず、必要ともしていない」と全面的に反論し、両社の対立が深まっています
訴訟の概要
Appleは2026年8月4日、生成AI開発大手のOpenAIを相手取った営業秘密訴訟について、新たな主張を盛り込んだ書面をカリフォルニア州北部連邦地方裁判所(U.S. District Court for the Northern District of California)に提出しました。両社の本社はいずれもカリフォルニア州北部にあり、この地裁が事案を管轄しています。
この訴訟は2026年7月10日に最初に提起されたもので、Appleは自社の元従業員がOpenAIへの転職に際して機密情報を持ち出したと訴えています。今回の書面で焦点となるのは、調査対象が当初名指しされた2人から、さらに11人を超える元従業員へと広がった点です。
当初の被告として挙げられていたのは、Appleの上級システムエンジニアだったChang Liu氏と、ハードウェア部門に関わっていたTang Yew Tan氏の2人でした。Appleは社内調査の結果、この2人以外にも11人を超える元従業員が証人、あるいは何らかの形で関与した可能性があるとしています。加えて、OpenAI側の従業員であるYu-Ting Peng氏の名前も挙がっています。
持ち出しの具体的な主張
Appleの書面には、情報流出をうかがわせる具体的な事例が並んでいます。ある元従業員は、Peng氏のOpenAIでの面接に先立ち、Liu氏やPeng氏と会い、未発表製品に関するAppleの専有情報について話し合ったとされています。
さらに別の元従業員は、OpenAIの面接を受ける前に、未発表のApple製品に関する機密文書のスクリーンショットを撮影したと主張されています。これらは単なる記憶の持ち出しではなく、具体的なデータの複製を伴う行為として位置づけられています。
訴状が提出された後には、OpenAIで働く複数の元Apple従業員が、Apple支給の業務用端末の返却について問い合わせてきたことも明らかにされました。Appleはこうした一連の動きを、情報流出の裏付けとして提示しています。

図に示すように、Appleは元従業員という経路を通じて、未発表製品の情報がOpenAI側へ渡ったと描いています。
訴訟の背景とio
この訴訟の背景には、OpenAIによるAIハードウェア開発の加速があります。今回の裁判では、Appleのデザインチームをかつてけん引したJony Ive氏が共同創業したデバイス企業ioや、OpenAIの財団組織も被告として名を連ねています。
ioは2025年にOpenAIが約65億ドルで買収したハードウェア企業です。両社は画面を持たない小型のAIデバイスを開発しているとされ、身の回りの状況を把握して対話するスマートフォンに代わる新しい携帯機器を目指しているとみられます。Appleの製品設計を熟知した人材が集まっている点が、今回の訴訟の緊張を高めています。
Appleは、盗まれたとする技術に基づくAIデバイスや製品の開発を差し止めるため、仮の差止命令(preliminary injunction)を求めています。あわせて、事実関係を早期に確定させる迅速な証拠開示(expedited discovery)も申し立てました。差止請求をめぐる裁判所の判断は事案ごとに分かれており、たとえばxAIの差止請求を裁判所が棄却したケースのように、申立てが認められないこともあります。
OpenAIの反論
OpenAIはブログ記事を通じて、Appleの主張に全面的に反論しました。同社は「私たちはAppleの営業秘密を保有しておらず、必要ともしていない」と述べ、情報を不正に取得した事実を否定しています。
さらにOpenAIは、Appleの手続きに複数の誤りがあったと指摘しました。連絡先を取り違えて別の担当者にメールを送ったことや、法務責任者との協議に関する事実と異なる主張が含まれていたことなどを挙げ、Apple側の対応を批判しています。
人材争奪戦の縮図
今回の訴訟は、AI業界で激しさを増す人材の獲得競争と、その裏側にある情報管理の難しさを浮き彫りにしています。優秀な技術者が企業間を移動すること自体は珍しくありませんが、未発表製品の知見が転職とともに流れることを、企業は強く警戒しています。
とりわけAppleとOpenAIは、次世代のAIデバイスという同じ領域で競合する可能性が高まっています。裁判所が差止請求をどう判断するかは、OpenAIのハードウェア戦略だけでなく、AI業界全体の人材の流動のあり方にも影響を及ぼしかねません。今後の証拠開示で、どこまで具体的な事実が明らかになるかが焦点となります。
