- 米議会のMATCH法案は既存のEUV禁輸をさらに上回る範囲を対象とし、中国が現在購入できる旧世代DUV露光装置まで禁輸対象に加えようとしている
- TechCrunchの報道によると、中国向け売上はASMLのネットシステム販売全体の19%を占め、法案成立は同社の収益構造に直接影響する
- オランダ通商大臣がワシントンを訪問して米商務長官と会談するなど、欧州は同盟国との協議なき一方的規制に正式に異議を唱えている
MATCH法案が狙う規制の範囲
2026年4月に米議会に提出されたMATCH法案は、中国の半導体メーカーが西側の製造装置にアクセスすることを広く制限することを目的としています。既存の規制ではEUV(極端紫外線)露光装置の対中輸出が長年にわたり禁止されてきましたが、MATCH法案はその範囲を大きく超える内容を持っています。
新たに禁輸対象として加えようとしているのが、DUV(深紫外線浸漬型)露光装置です。これらは10年以上前に初出荷された旧世代の機器であり、中国国内の半導体工場で現在も広く稼働しています。法案が成立すれば、既存設備への部品供給やメンテナンスサービスにまで制限が及ぶ可能性があります。
ただし、法案はまだ下院・上院の本会議で採決されておらず、成立するには予算関連などの大型法案に組み込まれる必要があると見込まれています。
なぜASMLが焦点なのか
ASMLはオランダに本社を置く欧州最大規模の半導体装置企業であり、EUV露光装置を世界で唯一製造するメーカーです。EUV露光装置はAIチップなど最先端半導体の量産に不可欠な基幹設備であり、TSMCやSamsungといったファウンドリが次世代品を製造するために欠かせません。次世代にあたるHigh-NA EUV装置については、ASMLが公式資料でトランジスタ密度の大幅な向上を示しており、AI向け計算資源の競争力を左右する技術として注目されています。
TechCrunchの報道によると、中国向け売上はASMLのネットシステム販売全体の19%を占めています。この比率はASMLの収益構造において無視できない規模であり、MATCH法案が成立した場合は同社の事業計画や雇用に直接的な打撃を与えることになります。
欧州の反発と同盟国の亀裂
オランダ通商大臣はMATCH法案への反対意見を直接伝えるためワシントンを訪問し、ハワード・ルトニック米商務長官や連邦議会議員らと会談しました。会談では「オランダの利益は極めて大きい」との懸念を正式に表明し、法案の見直しを求めています。
欧州が問題視しているのは規制の内容だけではなく、その決定プロセスでもあります。半導体輸出規制は本来、同盟国間で事前に協議を重ねて合意形成を図るべき分野です。しかし、MATCH法案は米国議会が主導する形で進んでおり、オランダや他の欧州諸国との調整が不十分なまま具体的な条文が固まりつつあるとして、反発を招いています。
欧州側の懸念は、ASMLの売上損失にとどまりません。規制強化によって同社が設備投資や研究開発の計画を修正せざるを得なくなった場合、将来の装置開発スピードや生産能力にまで影響が及びかねないとの見方もあります。
AI半導体供給網への影響
今回の動きは、AI向け半導体の開発・調達に携わる企業にとって、地政学的リスクが実際のビジネス判断に波及する具体例といえます。装置メーカーへの規制強化は、装置の供給量や価格、ひいてはチップの製造コストへと連鎖する可能性があります。
MATCH法案が成立するかどうかは現時点で不透明ですが、米欧間のこうした摩擦が繰り返されるたびに、サプライチェーンの多角化や代替調達先の確保を急ぐ動きが強まる傾向があります。先端AI向けチップを自社開発・調達しようとする企業は、装置レベルの地政学リスクを中長期のロードマップに織り込む必要性が高まっています。
