- ASMLのHigh-NA EUV装置は数値開口を0.33から0.55に拡大し、トランジスタ密度を最大3倍に向上させる
- 価格4億ドル・重量150トン超という極限的な精密装置で、インテルが2024年春から量産適用を開始した
- AIチップ需要の急拡大を背景に、次世代GPU・AIアクセラレータの製造基盤として半導体業界全体が注目する
4億ドルの装置が実現すること
ASMLが投入したHigh-NA EUV(極端紫外線)露光装置は、半導体製造における解像度の限界を更新する機器です。従来のEUV装置が13ナノメートルの解像度だったのに対し、新装置は8ナノメートルの解像度を達成します。数値開口(NA: Numerical Aperture)を0.33から0.55へ50%以上向上させることで、トランジスタのサイズを約半分に縮小し、チップ当たりの密度をほぼ3倍に高めることが可能になりました。
この性能向上は、AIモデルの学習・推論に欠かせないGPUやAIアクセラレータの次世代品を製造するうえで直接的な意味を持ちます。より多くのトランジスタを同じ面積に収めることで、演算能力の向上と消費電力の改善を同時に実現できるためです。AIチップ製造の需要が世界的に拡大するなか、この装置の登場は製造能力の上限そのものを引き上げる役割を担います。
150トンの精密機械が直面した壁
High-NA EUV装置の物理的な規模は圧倒的です。装置本体は二階建てバスほどの大きさで、重量は150トン以上に達します。光学システムだけで12トンを占め、メカトロニクス機構全体で200立方メートルを超えるという、半導体製造装置としては類を見ない規模です。
技術的な難題も一つではありませんでした。NAを高めると光が大きな角度でシリコンウェハに到達し、パターン転写時に影が生じる問題が発生します。ASMLの技術チームはこれに対し、露光マスク(レチクル)の縦横比を変えた非対称設計を採用しました。寸法比を2対1とすることで影の影響を抑制し、微細パターンの精度を確保しています。光学部品を供給するドイツのZeiss社は従来比2倍のサイズを持つ鏡を専用に製造し、レチクルの移動制御では22Gという高加速度での動作を実現して露光速度の向上にも対応しています。

AI競争を支える製造インフラ
AIモデルの大規模化に伴い、OpenAIやAnthropicをはじめとするAI企業が必要とする計算資源の量は急増しています。Reflection AIが月1.5億ドルでSpaceX計算資源を確保した事例が示すように、高性能チップへの投資競争は激化の一途をたどっています。そうした需要を物理的に支えるのが、より微細な回路を量産できる製造装置です。
ASMLは世界で唯一EUV露光装置を量産できるメーカーであり、High-NA EUV装置の出荷可能台数は当面ごく限られます。1台4億ドルという価格と製造の複雑さから、装置の大量生産には相応の時間がかかります。ASMLの2025年売上高は約400億ドル、時価総額は5000億ドルを超えますが、High-NA装置の本格普及はこれからの段階にあります。
インテルが先陣を切る量産適用
この新装置の最初の購入者はインテルです。2024年春、米オレゴン州の工場でHigh-NA EUV装置の組み立てと運用準備が始まりました。インテルが先行投資することで、次世代プロセス技術の量産ノウハウを早期に蓄積する狙いがあります。
半導体製造における微細化は、いわゆるムーアの法則の継続を物理的に支える取り組みです。High-NA EUV装置はその最前線に位置する技術であり、今後TSMCやSamsungなど主要ファウンドリも導入を進めるとみられています。AIチップの需要が製造能力の上限を試し続けるなか、この4億ドルの装置が半導体産業の向かう先を左右する重要な要素となっています。
