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AI-Papers

Terminal-Universeとは?行動履歴から実行環境を3.73万件合成する新手法

Terminal-Universeとは?行動履歴から実行環境を3.73万件合成する新手法
  • コードエージェントの行動履歴からファイル操作を再生し、実行可能なターミナル環境を自動再構築する手法
  • 公開トラジェクトリから3.73万件の環境を合成し、4種類のタスク生成手法で訓練データを拡張
  • Qwen3.5-27BのファインチューニングでTerminal-Bench 2.1が+11.9ポイント、EvoCode-Bench v2 MT@4が+13.8ポイント向上

研究の背景

ターミナル上でファイルを操作したりコマンドを実行したりするコードエージェントの学習には、実際に動く「実行可能環境」が欠かせません。エージェントが試行錯誤しながらタスクをこなし、その結果から学ぶためには、コマンドを打てば本当に反応が返ってくる作業空間が必要だからです。

ところが現状では、エージェントの行動履歴(トラジェクトリ)は大量に蓄積される一方で、そこで使われた実行環境そのものは再現できず失われてしまいます。環境をゼロから手作業で構築するのはコストが高く、大規模な訓練データを揃える際の大きな壁になっていました。

Terminal-Universeはこの課題に対し、発想を転換しています。新しく環境を作るのではなく、すでに存在する行動履歴の中に埋め込まれたファイル操作の記録を手がかりに、当時の作業空間を復元するというアプローチを取りました。

提案手法

この手法の核心は、記録済みトラジェクトリを「再生」して実行環境を復元する点にあります。エージェントが過去に行ったファイルの読み書きや作成といった操作を順番に再現することで、当時のワークスペースの状態を組み立て直します。

ただし履歴だけでは不足する情報もあります。そこで補完エージェントが欠けている依存関係やファイルを補い、タスクを実行するのに十分な環境かどうかを判定します。十分と認められた環境だけが保持され、再利用可能な資産として登録される仕組みです。

図2: Terminal-Universeの全体フレームワーク。記録されたトラジェクトリを再生・補完して実行可能なワークスペースを復元し、4種類のタスク合成に活用する
図2: Terminal-Universeの全体フレームワーク。記録されたトラジェクトリを再生・補完して実行可能なワークスペースを復元し、4種類のタスク合成に活用する(論文 Figure 2)

図2に示すように、復元されたワークスペースは訓練データを増やすための4種類のタスク合成手法に活用されます。それぞれ狙いが異なります。

  • Intent Recovery: 履歴から元のタスクの目的を再構成する
  • Single-WS synthesis: 単一の作業空間を探索し新しいタスク候補を提案する
  • Cross-WS synthesis: 依存関係を掘り起こし複数コードベースにまたがる課題を生成する
  • Multi-Round continuation: 単発のやり取りを反復的なセッションへ拡張する

特にMulti-Round continuationでは、ユーザーからのフィードバックを模擬しながら会話を継続させることで、1回のやり取りでは終わらない現実的なマルチターンのタスクを作り出します。これにより、実務に近い複雑な対話状況を学習に取り込めます。

実験結果

研究チームは公開されているターミナルエージェントのトラジェクトリから、タスク実行に十分な環境を3.73万件合成しました。この大規模データを用いてQwen3.5-27Bをファインチューニングし、複数のベンチマークで効果を検証しています。

ターミナル操作の総合力を測るTerminal-Bench 2.1と、コード進化タスクを扱うEvoCode-Bench v2で明確な性能向上が確認されました。特に反復的なやり取りを評価するEvoCode-Bench v2のMT@4指標での伸びが目立ちます。

ベンチマーク

指標

向上幅

Terminal-Bench 2.1

スコア

+11.9ポイント

EvoCode-Bench v2

MT@4

+13.8ポイント

マルチターン性能を示すMT@4での大きな改善は、Multi-Round continuationによって生成された反復的なタスクが実際に効いていることを裏付けています。単発のコマンド実行だけでなく、対話を重ねながら問題を解決する能力が伸びた点は、実用的なコーディング支援を考えるうえで意味のある結果です。

まとめと今後の展望

Terminal-Universeは、これまで捨てられていたエージェントの行動履歴を実行可能な環境という資産に変換する手法です。ゼロから環境を構築する高いコストを避けつつ、既存のトラジェクトリから大規模な訓練データを生み出せる点に独自性があります。

近年はagenticなコード生成への関心が高まっており、こうした潮流の中で環境不足を解消する現実的な選択肢を示した意義は小さくありません。関連する動きとして、LLMをタスクに応じて振り分けるLLMRouterのように、エージェント基盤を支える研究が各所で進んでいます。

一方で、復元された環境がどこまで元の実行環境を忠実に再現できているか、補完エージェントが加えた依存関係が実タスクの分布とずれないかといった点は検証の余地があります。合成データの品質が下流の性能をどこまで左右するかは、今後さらに詰めるべき論点でしょう。

論文情報: "Terminal-Universe: Turning Agent Trajectories into Scalable Terminal Environments"(Jie Wu et al., 2026) arXiv:2609.04148

本記事の図(図2)は解説のため上記論文より引用しています。

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