- 2026年5月18日、陪審員9名が全員一致でマスクの訴えを棄却。提訴が法定期限を超過していたという「時効」が決定的な理由となった
- 陪審は遅くとも2019年の営利子会社設立時点でマスクが問題を認識できたと判断。2024年の提訴は不当利得(2年)・慈善信託違反(3年)の両請求で時効を超過していた
- OpenAIの営利企業への完全転換計画は影響を受けず継続。マスクは第9巡回区控訴裁判所への控訴を予定している
9対0の全員一致で敗訴確定
2026年5月18日、カリフォルニア州連邦地裁の陪審員9名は全員一致で、イーロン・マスク氏の訴えを棄却する評決を下しました。マスク氏はOpenAI共同創業者のサム・アルトマン氏とグレッグ・ブロックマン氏を相手取り、OpenAIが非営利の設立理念に反した行為をとったと訴えていましたが、陪審はその主張を認めませんでした。
担当判事は評決を即座に受け入れ、裁判は終結しました。実質的な争点——OpenAIが契約上の義務を破ったかどうか——は陪審に委ねられることなく、「訴えを起こすのが遅すぎた」という時効の問題だけで決着がつきました。マスク氏は判決後、「裁判所は事件の本質に踏み込まず、カレンダー上の技術的な問題で決着させた」と批判し、第9巡回区控訴裁判所への控訴を表明しています。
裁判に至る経緯
OpenAIは2015年、非営利組織として設立されました。アルトマン氏やブロックマン氏ら創業メンバーは「人類全体のためにAIを開発する」という理念を掲げ、マスク氏もその趣旨に賛同して資金提供や組織づくりに協力しました。
ところが2019年、OpenAIは利益に上限を設けた「利益上限付きLLC(有限責任会社)」という営利子会社を設立しました。翌2020年にはMicrosoftがGPT-3モデルへの独占ライセンスを取得しています。この時期、マスク氏自身がSNS上で「OpenAIは実質的にMicrosoftに支配されている」と投稿しており、後に問題点を認識していたことを示す証拠として裁判で取り上げられました。
マスク氏はOpenAIとの関係を断ちながらも正式な訴訟提起には踏み切らず、2024年になって初めて提訴しました。請求内容は「慈善信託の違反」と「不当利得」の2点です。
時効が判決を決した理由
今回の裁判で陪審が問われたのは「マスク氏はいつ問題を認識できたか」という一点でした。マスク氏側は「2022年にOpenAIの企業評価額が200億ドルに達するという報道を見て初めて、営利部門が組織全体を支配していると気づいた」と主張しました。
しかし陪審は、遅くとも2019年の営利子会社設立の時点でマスク氏は問題を認識できる状況にあったと判断しました。カリフォルニア州法における不当利得請求の時効は2年、慈善信託違反の時効は3年です。2019年を起算点とすれば、それぞれの期限は2021年と2022年に到来します。2024年に提訴したマスク氏の訴えは、どちらの請求においても時効を2年以上超過していたことになります。
2020年のMicrosoft独占ライセンス取得という出来事も、陪審が「この頃には問題を認識できた」と判断した根拠のひとつとされました。

OpenAIの営利転換計画は継続
今回の判決によって、OpenAIが進めてきた営利企業への完全転換計画は後退なく進むことが確定しました。OpenAIは現在、非営利持株会社の傘下に営利企業を置く混合構造を解消し、完全な営利法人として再編することを目指しています。マスク氏の訴えが認められれば、こうした転換プロセスに法的ブレーキがかかる可能性がありましたが、その懸念は解消されました。
ただし、時効による棄却は実体的な判断を回避したものであり、「OpenAIが設立理念に反したかどうか」という核心部分には白黒がつかないまま残ります。マスク氏の控訴審では、時効の起算点に関する判断が争われると見られますが、OpenAIが創業時の誓約を守ったかどうかが法廷で正面から裁かれる機会は先送りになりました。
AI業界のガバナンスへの影響
今回の裁判はAI業界のガバナンスという観点で広く注目されていました。非営利の使命を掲げて設立された組織が商業的成功を追う方向へ変わっていくことの正当性を、司法がどう評価するかが問われていたからです。
結果として司法は実体判断を下さず、時効という手続き上の問題で審理を終えました。一方、OpenAIへの出資者や提携企業にとっては、営利転換計画をめぐる法的不確実性が一つ取り除かれたことで、事業計画を立てやすくなります。マスク氏が控訴審で時効の起算点を覆せるかどうかが、今後の焦点となります。
