- Pineconeはゼロ運用で本番投入できる反面コスト高め。QdrantはRust製でp95レイテンシ30-40ms・最大15,000 QPSを誇るオープンソース最高性能DB
- RAGアプリにはWeaviateのネイティブハイブリッドサーチが強力。10億ベクトル超の大規模展開にはMilvus/Zilliz Cloudが最適解で、自己ホストによるコスト削減効果も大きい
- 試作・学習にはChromaDB、既存PostgreSQL環境ならpgvector+pgvectorscaleで50Mベクトルまで専用DBに匹敵する471 QPSを実現できる
ベクトルデータベースとは
ベクトルデータベース(Vector Database)とは、高次元のベクトル(数値の配列)を効率的に保存・検索するために設計された特殊なデータベースです。テキストや画像などのコンテンツをAIモデルで変換した「埋め込み(Embedding)」を扱うことを得意とし、キーワードの一致ではなく意味的な類似性に基づいて情報を検索できます。
従来のリレーショナルDBで「wide-fit athletic footwear」を検索すると、この文字列が含まれるデータしか返せません。しかしベクトルデータベースなら、「broad-fit running shoes」という別の表現のデータも意味が近ければヒットします。この仕組みが、RAG(Retrieval-Augmented Generation: 検索拡張生成)や意味検索を支える基盤技術です。

なぜ今これほど注目されるのか
2024年以降、RAGを活用したLLM(大規模言語モデル)アプリケーションの普及とともに、ベクトルデータベースの需要が急増しています。LLMは膨大な知識を内部に持ちますが、社内ドキュメントや最新情報は学習していません。そこでベクトルデータベースに外部知識を格納し、ユーザーの質問に関連する文書を取得してLLMに渡す手法がRAGです。
市場規模は2024年の17億ドルから、2032年には106億ドルに達すると予測されています。Milvusのスター数35,000超、QdrantやWeaviateも急増しており、AI開発のインフラ層として確固たる地位を確立しつつあります。
主要5製品の徹底解説
Pinecone — マネージドの最高峰
Pineconeはフルマネージドのベクトルデータベースサービスです。インフラ管理が不要で、数行のコードで本番環境へのデプロイが完了します。Pinecone自身の計測ではp99レイテンシ7msを達成しており、Elasticsearchの同条件比較での約1,600msと比べると圧倒的なパフォーマンスです。トラフィックが100 QPSから10,000 QPSに急増しても自動でスケールするため、深夜のアラート対応も不要です。
デメリットはコストとベンダーロックインです。ストレージ料金($0.33/GB/月)に加えてread/write操作ごとに課金されるため、大規模になると月額$2,000を超えることもあります。独自システムのため他DBへの移行にはAPIの書き直しが必要です。時間優先のスタートアップや、インフラ専門知識がないチームには最適な選択肢です。
Qdrant — オープンソース最高峰の性能
QdrantはRust製のオープンソースベクトルデータベースで、無料ティアが最も充実しています。1GBのベクトルストレージを無期限・クレジットカード不要で利用でき、有料プランは$25/月からと手頃です。
性能面ではp95レイテンシ30-40ms、スループット8,000-15,000 QPSと主要製品のなかでも最高水準を誇ります。JSONベースのリッチなフィルタリング機能も強力で、ネスト構造のプロパティや複数条件の組み合わせにも対応します。Rust実装のためフットプリントが小さく、エッジデバイスやIoT環境への展開も可能です。
注意点は50Mベクトルを超えると性能が低下することです。VectorDBBenchの計測では50Mベクトル・99%リコール条件で41.47 QPSと、後述するpgvectorscaleの471 QPSを大きく下回ります。50M以下の中規模プロジェクトで、コスト重視かつ高フィルタリング性能が必要なチームに向いています。
Weaviate — ハイブリッドサーチの王者
WeaviateはRAGアプリ向けに最適化されたオープンソースのベクトルデータベースです。最大の強みはネイティブなハイブリッドサーチで、ベクトル類似検索・BM25キーワード検索・メタデータフィルタリングを1つのクエリで同時に実行できます。他のDBではこれらを組み合わせるのに追加設定が必要ですが、Weaviateでは標準機能として提供されます。
OpenAI、Cohere、HuggingFaceなどの埋め込みモデルをプラグインで差し替えられるモジュラーアーキテクチャも特徴的です。ドキュメントの品質が高く、半日で動作するRAGシステムを構築できると評判です。RAGクエリのレイテンシは50ms前後と十分実用的ですが、純粋なベクトル検索速度はQdrantやMilvusに劣ります。マネージドクラウドは14日トライアル後$25/月から。RAGシステムやマルチテナントアプリを構築するチームに最適です。
Milvus / Zilliz Cloud — エンタープライズスケールの選択肢
MilvusはGitHubスター数35,000超を誇るオープンソースのベクトルデータベースです。ストレージとコンピュートを分離したクラウドネイティブアーキテクチャにより、インデックスとクエリを独立してスケールできます。10億〜1兆のベクトルを扱う大規模環境での実績があり、p50レイテンシは一桁ミリ秒を実現します。
デメリットは運用の複雑さです。KubernetesやHNSWパラメータの調整、分散システムのデバッグには専門的な知識が必要で、小規模チームには荷が重い場合もあります。自己ホスト時のインフラコストはAWSで$500-1,000/月程度ですが、同規模のPineconeと比較すると大幅な節約になります。
Zilliz Cloudはマネージド版Milvusで、独自のCardinal Engineによりオープンソース版比10倍の高速化を実現しています。p50レイテンシ10ms以下、99.95%のSLA、SOC2/ISO27001認定も備えます。10億ベクトル超の大規模展開、またはコスト効率を重視しつつエンタープライズ要件を満たしたいチームに向いています。
ChromaDB — 開発者体験No.1のプロトタイプ向け
ChromaDBはプロトタイプ開発とMVP構築に特化したベクトルデータベースです。NumPyに近い直感的なAPIでインスタンス化からクエリ実行まで数行で完了し、ゼロ設定で動作します。アプリ内に組み込まれるアーキテクチャはネットワークレイテンシがなく、開発環境での反復を高速化します。
2025年のRust書き換えにより書き込み・クエリ速度が4倍向上し、メタデータフィルタリングとフルテキスト検索も内蔵されています。Apache 2.0ライセンスで完全無料ですが、10Mベクトル超の本番スケールは想定されておらず、成長したらQdrantやMilvusへの移行が必要です。RAGの学習、コンセプト検証、個人開発に最適な選択肢です。
性能ベンチマーク比較
各データベースのパフォーマンスを768次元・100万ベクトルの条件で比較します(2025年測定データをもとに作成)。
製品 | p95レイテンシ | スループット(QPS) | メモリ使用量 | マネージド |
|---|---|---|---|---|
Pinecone | 40-50ms | 5,000-10,000 | 約4GB | ✓(専用) |
Qdrant | 30-40ms | 8,000-15,000 | 約3GB(量子化後) | ✓ |
Weaviate | 50-70ms | 3,000-8,000 | 約3.5GB | ✓ |
Milvus | 50-80ms | 10,000-20,000 | 約4GB | ✓(Zilliz) |
FAISS(参考) | 10-20ms | 20,000-50,000 | 約3GB(インメモリ) | ✗(ライブラリ) |
注目すべきは大規模時の逆転現象です。50Mベクトル・99%リコールの条件では、PostgreSQL拡張のpgvectorscaleが471 QPSを記録し、Qdrantの41.47 QPSを11.4倍も上回りました。「専用DBが常に勝つ」という通説に一石を投じる結果で、既存のPostgreSQL環境があれば追加の専用DBを導入しなくてもよい可能性があります。

コスト比較(10Mベクトル・768次元)
製品 | 月額コスト目安 | 無料ティア | 自己ホスト |
|---|---|---|---|
Pinecone | $200-400/月 | あり(100Kベクトル) | 不可 |
Qdrant Cloud | $120-250/月 | 1GB永続無料 | 可 |
Weaviate Cloud | $150-300/月 | 14日トライアル | 可 |
Zilliz Cloud(Milvus) | $300-600/月 | 5GBあり | 可(OSS) |
自己ホスト(AWS目安) | $100-200/月 | — | 可 |
ChromaDB | 無料 | — | 可 |
コスト観点では、Milvusを自己ホストすると50Mベクトル規模で$500-1,000/月程度です。同規模のPineconeは$3,500前後になることもあり、エンジニアリングリソースがあれば自己ホストは大きなコスト削減手段になります。一般的に50-100Mベクトルに達したとき、または月額$500を超えたタイミングが自己ホストへの移行目安と言われています。
ユースケース別の選び方
状況 | 推奨製品 | 理由 |
|---|---|---|
既存PostgreSQL環境(50M以下) | pgvector + pgvectorscale | 追加DB不要、SQL統一管理 |
プロトタイプ・学習 | ChromaDB | ゼロ設定、最高のDX |
新規プロジェクト(10M以下) | Qdrant Cloud(無料ティア) | 高性能・コスト不要 |
新規プロジェクト(10-100M) | Pinecone または Weaviate | 運用不要・ハイブリッドサーチ |
新規プロジェクト(100M超) | Milvus / Zilliz Cloud | 大規模向け設計 |
RAGアプリ構築 | Weaviate または Pinecone | ハイブリッドサーチ・低レイテンシ |
エッジ・デバイス展開 | Qdrant | コンパクトなRust実装 |
エンタープライズ大規模 | Milvus(自己ホスト)またはZilliz | 10億ベクトル超の実績 |
RAGシステムを構築する際はベクトルDBの選定と合わせて、オーケストレーション層のフレームワーク選びも重要です。AIエージェントフレームワーク比較【2026】LangGraph・CrewAI・OpenAI Agents SDKの選び方も参考にしてください。
LangChainでの実装例
主要な製品はすべてLangChainやLlamaIndexを通じて同一インターフェースで扱えます。以下はPineconeからQdrantへの切り替えコード例です。
# Pineconeの場合
from langchain_pinecone import PineconeVectorStore
vector_store = PineconeVectorStore(index=index, embedding=embeddings)
# Qdrantへの切り替え(変更は約10行のみ)
from langchain_qdrant import QdrantVectorStore
from qdrant_client import QdrantClient
client = QdrantClient(url="http://localhost:6333")
vector_store = QdrantVectorStore(
client=client,
collection_name="my-collection",
embedding=embeddings
)
# クエリは共通
results = vector_store.similarity_search("クエリテキスト", k=3)
LangChainを使えばデータ収集・チャンキング・クエリのロジックはそのままに、ベクトルストアの設定だけ変更できます。初期開発はChromaDBやQdrant Cloudの無料ティアで始め、スケールに応じてMilvusや自己ホスト環境へ移行するのが現実的なアプローチです。

選択のまとめ
- Pinecone:ゼロ運用・最速導入。コストより時間を優先するチームに
- Qdrant:最高パフォーマンス×最充実の無料ティア。50M以下のコスト重視プロジェクトに
- Weaviate:ハイブリッドサーチが必須のRAGアプリに。ドキュメント品質も業界最高水準
- Milvus / Zilliz:10億ベクトル超の大規模・エンタープライズ用途に
- ChromaDB:プロトタイプ・学習用途に。本番移行前の検証に最適
- pgvector + pgvectorscale:既存PostgreSQL環境に追加するだけ。50Mまでは専用DBと互角の性能
ベクトルデータベースに「万能な正解」はありません。現在のスケールで最適なものを選び、成長に合わせて移行する柔軟な姿勢が大切です。まずは1,000件のドキュメントでベンチマークを取り、実際のクエリパターンでリコールとレイテンシを測定してから決断するのが確実な方法です。
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