- LangGraph・CrewAI・AutoGen・OpenAI Agents SDK・Google ADKの5大フレームワークを、アーキテクチャ・学習コスト・本番適性の観点で徹底比較
- 複雑なワークフロー制御にはLangGraph、マルチエージェント協調にはCrewAI、シンプルで即戦力の自動化にはOpenAI Agents SDKが最適解
- 2026年現在、MCP(Model Context Protocol)への対応が各フレームワークの評価軸として急浮上しており、エコシステム全体の勢力図を変えつつある
AIエージェントフレームワークとは何か
「AIエージェント」という言葉が急速に普及したのは2024年後半のことです。単なるチャットボットや1問1答の質問応答ではなく、複数のツールを呼び出し、計画を立て、自律的にタスクを遂行するAIシステムが実用段階を迎えました。
AIエージェントフレームワークは、こうした自律型AIを構築するための「骨格」です。LLM(大規模言語モデル)の呼び出し、外部ツールとの連携、複数エージェント間の通信、メモリ管理、ワークフロー制御といった共通機能をライブラリとして提供することで、開発者がゼロから実装する手間を大幅に省いてくれます。
2026年現在、実務で選ばれる主要フレームワークは5つに絞られてきました。LangGraph・CrewAI・AutoGen・OpenAI Agents SDK・Google ADKです。それぞれ設計思想が異なり、得意なユースケースも大きく違います。本記事では各フレームワークの特徴を比較しながら、プロジェクトに合った選び方を解説します。

主要5フレームワークの特徴
LangGraph — グラフベースの精密なワークフロー制御
LangGraphは、LangChainチームが開発したワークフロー制御フレームワークです。処理の流れを有向グラフ(Directed Acyclic Graph)として定義するのが最大の特徴で、「条件によってAルートかBルートに分岐する」「エラー時にリトライする」「ループしながら結果を改善する」といった複雑な制御を直感的に記述できます。
他のフレームワークが「エージェントに自律判断を委ねる」という発想なのに対し、LangGraphは「ワークフローを開発者が精密に設計する」という思想を持っています。その分、学習コストは高めですが、本番環境での予測可能性と制御性は群を抜いています。ストリーミング処理、ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間の承認を挟む仕組み)、チェックポイントによる途中再開など、エンタープライズ要件を満たす機能が豊富です。
- 向いている用途: 複雑な承認フロー・RAGパイプライン・複数ステップの業務自動化
- 学習コスト: 高め(グラフ構造の概念理解が必要)
- 本番適性: 非常に高い
CrewAI — ロールベースのマルチエージェント協調
CrewAIは、複数のAIエージェントが役割(Role)を持って協調作業することを直感的に設計できるフレームワークです。「リサーチャー」「ライター」「編集者」といった役割を定義し、チームのように連携させるイメージで開発できます。
LangChainなどの既存フレームワークに依存しないゼロから設計されており、軽量で処理が高速なのが特徴です。設定項目がシンプルに整理されているため、PoCフェーズでも短時間で動くものを作れます。オンプレミス運用にも対応しており、セキュリティ要件が厳しい企業でも導入しやすい構造です。意思決定の過程が追跡しやすく、業務の透明性向上にも貢献します。
- 向いている用途: コンテンツ生成・リサーチ自動化・マルチステップのビジネスプロセス
- 学習コスト: 低〜中程度
- 本番適性: 中〜高
AutoGen — 非同期マルチエージェントとコード実行
AutoGenは、Microsoftが開発したマルチエージェントフレームワークです。複数のエージェントが非同期にメッセージを交換しながらタスクを分担する仕組みが特徴で、長時間かかる複雑なタスクの並行処理が得意です。
コードの自動生成と検証を行う実行環境(Code Executor)を内蔵しており、プログラミングタスクや研究・分析用途での活用が盛んです。2024年末のv0.4では非同期処理の安定性が大幅に向上し、エージェントのライフサイクル管理も明確になりました。Microsoft Azureとの統合が深く、エンタープライズ利用での実績も着実に積み上がっています。
- 向いている用途: コード生成・デバッグ・研究シミュレーション・並行処理が必要なタスク
- 学習コスト: 中程度
- 本番適性: 中〜高(Azure連携時は特に高い)
OpenAI Agents SDK — シンプルで実用的な公式フレームワーク
OpenAI Agents SDKは、2025年3月にOpenAIが公式リリースしたエージェント開発SDKです。実験的フレームワーク「Swarm」の後継として位置づけられており、シンプルさと実用性の両立が設計思想の核心にあります。
Pythonの標準的な記法で書けるため、複雑な概念を覚えずにすぐ開発に着手できます。エージェントを定義し、ツールを渡し、実行する——この3ステップで基本的なエージェントが動作します。
最大の強みはMCP(Model Context Protocol)への公式対応です。MCPは外部ツールやデータソースとの通信を標準化したプロトコルで、対応する豊富なMCPサーバーエコシステムをそのまま活用できます。組み込みのトレーシング機能により、エージェントの挙動を可視化・デバッグしやすい点も実務で高く評価されています。
- 向いている用途: カスタマーサポート・文書処理・シンプルな業務自動化
- 学習コスト: 低い
- 本番適性: 高い(OpenAI APIとの親和性が最大)
Google ADK — Gemini統合のGoogle公式フレームワーク
Google ADK(Agent Development Kit)は、2025年4月にGoogleが公開したAIエージェント開発フレームワークです。GeminiをはじめとするGoogleの高度なモデルを前提に設計されており、Google Cloudサービスとのシームレスな統合が最大の特徴です。
ADK Visual Builderというグラフィカルなツールを使えば、ドラッグ&ドロップでエージェントを設計でき、コードなしでプロトタイプを作れます。Cloud Runへのデプロイも数コマンドで完了し、BigQuery・Vertex AI・Google Workspaceとの連携も標準で整っています。すでにGoogleエコシステムを活用している企業にとって、最も導入摩擦の少ない選択肢です。
- 向いている用途: Google Workspace連携・Cloud Runデプロイ・Gemini活用プロジェクト
- 学習コスト: 低〜中程度
- 本番適性: 高い(Google Cloud利用時)
5フレームワーク徹底比較表
フレームワーク | 開発元 | アーキテクチャ | 学習コスト | MCP対応 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
LangGraph | LangChain | 有向グラフ | 高め | △ | 複雑なワークフロー・本番運用 |
CrewAI | CrewAI Inc. | ロールベース | 低〜中 | ○ | マルチエージェント協調・PoC |
AutoGen | Microsoft | 非同期メッセージング | 中程度 | △ | コード生成・研究・分析 |
OpenAI Agents SDK | OpenAI | ルーティング/ハンドオフ | 低い | ◎(公式) | シンプルな業務自動化 |
Google ADK | マルチエージェント/GUI | 低〜中 | ○ | Googleエコシステム連携 |

ユースケース別の選び方
複雑な業務プロセスを自動化したい → LangGraph
受注処理、承認フロー、複数システムとの連携など、「条件によって処理が分岐する」「エラー時に別の経路を通る」といった複雑なワークフローにはLangGraphが最適です。グラフ構造でワークフローを可視化・管理できるため、チームでの長期保守にも向いています。
ただし学習コストは高めです。LangChainの基礎を理解してからステップアップするのが現実的な進め方で、いきなり大規模システムに適用するよりも、まず小さなグラフから始めることをお勧めします。
マルチエージェントで協調作業させたい → CrewAI
「リサーチエージェントが情報収集し、ライターエージェントが文章を書き、編集エージェントが仕上げる」といったチーム型ワークフローにはCrewAIが向いています。役割の定義がシンプルでコードが読みやすく、チームでの開発・保守がしやすい設計です。PoCやスタートアップでの初期開発に特に適しており、「まず動かしてみたい」場面でも最速で成果を出せます。
また、100万件超のWeb操作データで訓練されたAIエージェントのような研究事例も登場しており、マルチエージェントの可能性はさらに広がっています。
コード生成・技術タスクを自動化したい → AutoGen
ソフトウェア開発の補助、テストコードの自動生成、データ分析パイプラインの構築など、プログラミング作業の自動化にはAutoGenが最も適しています。Code Executorが組み込まれており、生成したコードをその場で実行・検証できる点が他のフレームワークにない強みです。Azure OpenAIとの統合が深く、Microsoftのエコシステムを使っている企業にとって管理面でも扱いやすい環境が整っています。
手軽に始めて本番利用したい → OpenAI Agents SDK
「難しいことを覚えずに、サクッとエージェントを作りたい」という場合の第一選択肢がOpenAI Agents SDKです。シンプルな設計で初日から動くものを作れ、MCP対応によって外部ツールの連携も標準化されています。GPT-4oをはじめとするOpenAIモデルを使っている場合は、既存のコードベースへの追加も容易です。
Googleサービスと深く統合したい → Google ADK
Google WorkspaceやGoogle Cloudを業務基盤にしている組織には、Google ADKが最も親和性の高い選択です。Geminiの高い理解能力と、BigQuery・Vertex AI・Cloud Runとのネイティブ統合により、データドリブンなエージェントを短期間で構築できます。ADK Visual Builderの直感的なUIにより、エンジニア以外のメンバーも設計に参加しやすい点も組織的な導入を後押しします。
2026年の注目トレンド:MCP対応とフレームワーク間連携
2025年後半から急速に普及しているMCP(Model Context Protocol)は、AIエージェントフレームワークの評価基準を変えつつあります。MCPはエージェントが使えるツール(ファイル操作、ブラウザ操作、データベース接続など)を標準化したプロトコルで、一度MCPサーバーとして実装されたツールはどのフレームワークからも再利用できます。
OpenAI Agents SDKがMCPを公式サポートし、CrewAIやGoogle ADKも対応を進めるなか、MCP対応の充実度がフレームワーク評価の重要な軸になってきました。フレームワーク固有のツール実装に縛られず、MCPエコシステムを横断的に活用できる環境が整いつつあります。
また、フレームワーク同士の相互運用性も高まっています。LangGraphで全体のワークフローを管理しながら、サブタスクの実行にCrewAIのロール設計を組み込むといった組み合わせも現実的になってきました。「どれか一つを選ぶ」という発想から、「適材適所で組み合わせる」というアーキテクチャ思想へのシフトが2026年の潮流です。
まとめ
5つのフレームワークの選択指針をまとめると、次のようになります。複雑なワークフロー制御と本番適性ならLangGraph、マルチエージェント協調とPoCスピードならCrewAI、コード生成・技術タスクならAutoGen、シンプルさとMCP対応ならOpenAI Agents SDK、Googleエコシステムとの統合ならGoogle ADKという棲み分けが見えてきます。
最終的な選択は、チームのスキルセット、既存インフラとの親和性、そして構築するシステムの複雑さによって決まります。まず小さなプロトタイプで複数フレームワークを試してみることが、2026年のAIエージェント開発における最も確実な近道です。
