- 手術不要のMEGデバイスで脳波を取得し、連続キーボード入力を最大78%の精度で解読する非侵襲型BCI
- v1(孤立文字を対象とした約80%)とv2(連続入力シーケンスの通算61〜78%)は評価条件が根本的に異なるため、精度数値を直接比較できない
- 学習コードとデータセットを公開予定で、ALS患者など発話機能を失った人々の意思疎通支援への活用が広く期待される
Brain2Qwerty v2とは
Meta傘下の基礎AI研究組織FAIR(Fundamental AI Research)は2026年7月、非侵襲型のブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI:Brain-Computer Interface)技術「Brain2Qwerty v2」を発表しました。BCIとは、脳の神経活動を読み取ってコンピュータへの入力信号に変換する技術であり、脳に電極を直接埋め込む侵襲型と、体外のデバイスで計測する非侵襲型に大別されます。
Brain2Qwerty v2は頭部に装着する脳磁図(MEG:Magnetoencephalography)センサーを使います。MEGは神経活動に伴って生じる微弱な磁場を体外から計測する技術です。同種の非侵襲型センサーとして脳波計(EEG:Electroencephalography)もありますが、MEGは空間分解能が高く、より詳細な脳活動パターンを取得できます。
技術の仕組み
ユーザーがQWERTYキーボード上のキーを押すことを頭の中でイメージすると、その際に発生するMEG信号をシステムが取得します。FAIRの研究チームは9名のボランティアから合計10時間分のMEGデータを収集し、約2000語から成るデータセットで機械学習モデルを訓練しました。
信号処理の段階では、ノイズ除去と特徴抽出を組み合わせることで、個人差が大きいMEG信号から共通パターンを学習します。リアルタイム性も確保されており、ユーザーがキーを思い浮かべた直後に対応する文字を出力できます。
v2の認識精度と評価条件
v2の評価では、連続するキーストロークシーケンス全体の通算認識率が61%、最良条件では最大78%を達成しました。研究チームは、手術が不要という制約のもとで侵襲型BCIデバイスの性能に迫る水準を実現したと説明しています。
2025年に発表されたv1では「約80%」という精度が報告されています。ただし、v1は孤立した単一文字を一問一答形式で認識させる条件での数値であり、v2が対象とする連続入力シーケンスの通算認識率とは評価タスクの性質が根本的に異なります。孤立文字の認識は候補が26文字に限られますが、連続入力ではシーケンス全体の誤りが累積するため、はるかに難しい問題設定です。研究チームも両者を単純に比較することは適切でないとしており、v2の数値はより現実的なタイピング条件を対象とした成果として解釈する必要があります。
侵襲型BCIとの比較
現時点で最高精度を誇るBCIの多くは、脳に電極を直接埋め込む侵襲型です。侵襲型は神経信号を高いS/N比で取得できる反面、手術リスクや感染症リスクを伴います。FAIRの今回の研究は、手術なしで侵襲型に近い精度を目指すという方向性において具体的な前進を示しています。
応用先として期待されるのが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患で発話能力を失った患者の意思疎通支援です。侵襲型の手術を選択できない患者にとって、高精度な非侵襲型BCIは現実的な代替手段になり得ます。
コード公開と今後の課題
FAIRは学習コードとデータセットを公開する予定であり、研究者や開発者が追実験や独自の改良を進めやすい環境を整えています。これにより、BCI分野全体の研究サイクルが加速することが見込まれます。
現時点の課題としてはMEGデバイス自体の大型さと高コストが挙げられます。日常的な利用に向けてはデバイスの小型化と低価格化が不可欠であり、並行して進む小型MEGセンサーの研究成果との組み合わせが実用化への鍵となるでしょう。
