- フリーランスになると年収は上がるが、最適化に偏ると「作業者」として5年後にAIに置き換えられるリスクがある
- 市場は「提案できる上流人材」と「作業者」に二極化しており、マネジメント経験が市場価値を大きく左右する
- 旅行・出会い・新分野という「タイパ無視の探索」こそが、AIに代替されないシナプス型人材を生む最高の自己投資だ
「会社を辞めてフリーランスになれば、手取りが一気に跳ね上がる」、この言葉に背中を押されて独立した若いエンジニアやクリエイターは、ここ数年で急増した。コロナ禍のリモートワーク普及が追い風となり、「会社に縛られない自由な働き方」の象徴としてフリーランスは憧れの的になった。

ところが今、その流れに異変が生じている。独立から5〜6年を経た30代のフリーランスを中心に、「正社員に戻りたい」という声が急増しているのだ。案件の減少、単価の頭打ち、将来への漠然とした不安、「フリーランス2026年問題」と呼ばれるこの現象は、早期独立のリスクを改めて浮き彫りにしている。
彼らはなぜ行き詰まったのか。そしてAIが台頭するこの時代に、買い叩かれないフリーランスであり続けるためには何が必要なのか。
年収は上がるがキャリアは頭打ちに
正直に言おう。フリーランスになれば、短期的には年収は上がる。これは事実だ。会社員として700万円稼いでいたエンジニアが独立すれば、中間マージンや無駄な会議コストが消え、同じ稼働量で1000万円超を狙える。その点については否定するつもりはない。
問題はその先だ。多くのフリーランスが直面する現実として、30代を迎えたあたりから「単価がまったく上がらなくなった」「良い案件に声がかからなくなった」という停滞期が訪れる。最初の2〜3年は順調だったのに、なぜか壁にぶつかる。そして気づけば、スキルは5年前のままで、ただ歳だけを重ねた状態になっている。
さらにコロナ後の市場変化が追い打ちをかけた。フリーランスの多くが希望する「完全フルリモート案件」の倍率は急騰し、出社回帰の波にも対応できない。ライフステージが変わり、結婚や出産を機に収入の安定を求め始めると、精神的な綱渡りが日常になる。「フリーランスは自由」どころか、「案件の切れ目が命取り」になる現実を思い知らされる。
キャリアが止まる本当の理由
では、なぜキャリアが頭打ちになるのか。その本質を一言で表すなら「最適化のしすぎ」だ。
フリーランスになった瞬間、人は無意識に「今すぐ稼げること」だけにフォーカスしはじめる。得意なReactのフロントエンド開発、慣れ親しんだAWSの設定、実績のあるLP制作、、、「これで食えているうちは変える必要はない」という発想が定着する。これが経営学でいう「Exploit(最適化)」の状態だ。
この動画が、まさに的を射たことを言っている。
動画では「Exploit(最適化)」と「Explore(探索)」というフレームワークを用いて、成長の本質を解説している。最適化とは今ある強みを磨いて効率化すること。探索とは、成果が出るかわからない新しい分野に踏み込むことだ。短期的には最適化の方が利益は出やすい。しかし、ルールが変わった瞬間に最適化だけの人間は脆くなる。
会社員時代には、この「探索」が強制的に起きていた。上司からの理不尽な無茶振り、望まない部署への異動、未経験の領域への突撃。これらは当時は苦痛だったかもしれないが、実は強制的な「Explore」だったのだ。フリーランスになるとこの仕組みが消える。結果として、今あるスキルを切り売りするだけの「最適化マシン」になっていく。
市場は作業者を必要としなくなった
そしてここに、AIという黒船が来航した。
フリーランス市場は今、明確に二極化している。「案件に困らない上位1〜2割」と「仕事が取れない下位8〜9割」だ。生き残っている層の共通点は明確だ。上流工程から下流まで一気通貫で対応でき、クライアントに「提案」ができる。数字を作れる。「ぜひあなたにお願いしたい」と指名される。
一方、苦しんでいる層の特徴も明確だ。「言われたものを作るだけ」という受け身のスタンス、受注窓口はエージェントのみ、「案件ありますよね?」という前提の姿勢。この「作業者」の仕事は、企業の内製化とAIによって急速に置き換えられている。
ここで冷静に考えてほしい。早期フリーランスの最大の損失は、「上流工程とマネジメントの経験を積む機会を失う」ことだ。チームを束ね、プロジェクトを推進し、クライアントと折衝する能力は、実際に組織の中で揉まれなければ身につかない。「会社員という、失敗しても給料がもらえる安全な環境」でこそ積めるリスクある経験を、フリーランスになることで自ら手放しているとも言える。
マネジメント経験を積んでから独立した人が、生涯年収でも市場価値でも圧倒的に高い結果を出しているのはそのためだ。
「シナプス型人材」になるための3つの探索
マネジメント経験を積んでからの独立の方が良いが、早期にフリーランスになりたい人もいるだろう。
では、どうすればいいのか。答えは「Explore(探索)を意図的に生活に組み込む」ことだ。ここで重要なのは、「探索=勉強」ではないということ。机に向かって新しい技術書を読むことだけが探索ではない。
人間の脳は、新しい経験を積むたびにシナプスが増え、既存の記憶や知識と新しい刺激が結びつく。エンジニアとしての知識と、旅先で出会った異文化の視点が結合したとき、AIには絶対に生み出せない「独自の価値」が生まれる。これが「シナプス型人材」の本質だ。
① 全く新しい分野を掛け合わせる
エンジニアがマーケティングを学ぶ、デザイナーが行動心理学を学ぶ、ライターが財務諸表の読み方を学ぶ。本業とは一見関係のない知見を取り込むことで、「その組み合わせで考えられる人」という希少なポジションが生まれる。AIは「一つの領域のプロ」にはなれるが、「複数領域の掛け算」は人間に分があることが多い。
② 「タイパが悪い」外の世界に出る
旅行、外食、美術館、ライブ、農業体験。一見すると仕事に直結しない「タイパの悪い」経験こそが、独自のアイデアの源泉になる。スモールビジネスや独立系クリエイターが差別化できているのは、往々にして「この人ならではの感性」によるものだ。その感性は、画面の前だけでは絶対に育たない。「美味しいものを食べろ、旅に出ろ、感動しろ」は、最高の自己投資の指示書だ。
③ 新しい人との出会いを積極的に求める
異業種の人、異世代の人、全く違うバックグラウンドを持つ人との対話は、自分の思考回路に新しいシナプスを接続する。コミュニティ、交流会、偶然の出会い。「効率が悪い」と切り捨てていたネットワーキングの機会が、5年後・10年後に「あの出会いが転機だった」になることは珍しくない。フリーランスとして生き残っている上位層は、例外なく人脈の幅が広い。
探索者だけが買い叩かれない
AIが進化するほど、「効率化(最適化)」の価値は下がっていく。コードを素早く書く、定型の翻訳をする、マニュアル通りのデザインを作る。これらはAIの得意領域に日々侵食されている。
逆説的だが、だからこそ「タイパを無視した探索」に価値が生まれる時代になった。泥臭い人との関わり、無駄に思える経験、効率とは程遠い冒険。それらが積み重なって初めて、「あなたにしか出せない価値」が生まれる。
フリーランスになるということは、作業をこなすマシンになることではない。稼いだお金と時間を使って外の世界を探索し、自分という人間をアップデートし続ける旅の始まりだ。「シナプス型の探索者」だけが、AIにも内製化にも買い叩かれない。
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