- インド政府が11億ドル規模のAI特化VCファンドを設立し、BlackstoneはAIスタートアップNeysaに6億ドルの株式投資を実施
- Anthropicがインドのベンガルールにオフィスを開設し、Infosysとの提携でインド企業向けAIエージェント導入を推進
- Adaniが2035年までに1000億ドルのAIデータセンター投資を計画し、Cohereは70言語以上対応の多言語モデルをオープンウェイトで公開
25万人参加のAIサミットにグローバルリーダーが集結
2026年2月、インド政府はニューデリーで4日間にわたる「India AI Impact Summit」を開催した。25万人の来場者を見込む同イベントには、OpenAI CEOのSam Altman、Anthropic CEOのDario Amodei、Alphabet CEOのSundar Pichai、Google DeepMind CEOのDemis Hassabis、Reliance会長のMukesh Ambaniといったテック業界の最重要人物が一堂に会した。
グローバルサウスの国が主催する初の大規模AIカンファレンスとして、100カ国以上から3万5000件を超える事前登録が集まっている。
モディ首相はフランスのマクロン大統領と共同で登壇する予定で、「人」「地球」「進歩」の3つのサンスクリット原則(スートラ)をテーマに据えた構成をとる。AI安全性の抽象的な議論よりも、農業・医療・教育・行政といった新興国における実用的なAI活用に焦点を当てている点が、欧米主導の従来のAI会議との違いだ。
政府・民間の大型投資が相次ぐ
サミットに合わせて、政府と民間の双方から大型の投資案件が発表された。インド政府は11億ドル(約1700億円)規模の国家VCファンドを承認し、AI・先端製造業スタートアップへの投資を本格化させる。これはインドがAIエコシステムの構築を国家戦略として位置づけていることを示すものである。
民間セクターではさらに大きな動きがあった。Blackstoneが主導する投資家グループは、インドのAIクラウドスタートアップNeysaに6億ドルの株式投資を実施し、過半数株式を取得した。Teachers' Venture Growth、TVS Capital、360 ONE Asset、Nexus Venture Partnersも参加している。
Neysaは追加で6億ドルのデット(負債)調達を計画しており、2万基以上のGPUを展開する構えだ。参考元によれば、合計12億ドルの資金調達はインドのAI分野で過去最大級の規模にあたるという。
さらにAdaniグループは、2035年までに1000億ドル(約15兆円)を再生可能エネルギーを活用したAIデータセンター建設に投じると発表した。この投資はサーバー製造、先端電力インフラ、ソブリンクラウドプラットフォーム(データを自国内に保持して運用するクラウド基盤)などの関連分野で1500億ドルの追加投資を生むと見込まれている。
サミットに合わせて公表された主な投資額を整理すると、次のようになる。
主体 | 金額 | 用途 |
|---|---|---|
インド政府(国家VCファンド) | 11億ドル(約1700億円) | AI・先端製造業スタートアップへの投資 |
Blackstone主導の投資家グループ → Neysa | 6億ドル(株式) | 過半数株式の取得 |
Neysa(調達計画) | 6億ドル(デット) | GPU 2万基以上の展開 |
Adaniグループ | 1000億ドル(約15兆円) | 再生可能エネルギー活用のAIデータセンター建設(2035年まで) |
関連分野への追加投資(見込み) | 1500億ドル | サーバー製造、先端電力インフラ、ソブリンクラウドなど |
金額の桁を並べると、政府ファンドよりも民間投資のほうが大きく、資金の中心が民間側にあることが読み取れる。
Anthropic・OpenAI・Cohereのインド戦略
AI企業各社もインド市場への本格参入を宣言した。ゴールドマン・サックスなど金融分野でも採用が進むAnthropicは、ベンガルールに初のインドオフィスを開設すると発表。同社によると、インドはClaude利用者数で米国に次ぐ世界第2位の市場となっている。
さらにInfosysとパートナーシップを締結し、ClaudeモデルやClaude Codeを活用したインド企業向けAIエージェントの導入を推進する。通信セクターから開始し、専用のAnthropic Center of Excellenceを設立する計画だ。
OpenAIのAltman CEOは、インドのChatGPT週間アクティブユーザーが1億人を超え、米国に次ぐ第2位であると明かした。学生ユーザー数では世界最多だという。一方、カナダのAI企業Cohereは、70言語以上に対応する多言語モデルファミリーをオープンウェイト(モデルの重みを公開する形式)で提供した。ローカルデバイスでの実行が可能で、特定の地域に最適化されたモデルも用意するとしている。
半導体・インフラ分野の提携も活発
AI半導体・インフラ分野でも発表が続いた。AMDはTata Consultancy Services(TCS)と提携し、AMDの「Helios」プラットフォームを基盤としたラックスケールAIインフラの開発に乗り出す。インド最大のITサービス企業とグローバル半導体メーカーの連携は、インドがAIコンピュートの自前調達を目指す動きを象徴している。
データセンターの電力問題に取り組むベンガルール拠点のC2iは、Peak XVが主導するシリーズAラウンドで1500万ドルを調達した。AIデータセンターの電力消費がボトルネックとなるなか、インド発のソリューションへの関心の高さがうかがえる。また、音声AI企業CartesiaはインドのBlue Machinesと提携し、ローカルデータレジデンシー(データを国内に置いて処理する仕組み)を備えた音声ソリューションを展開する。
IT業界へのAIインパクトと地政学的な意義
サミットでは楽観的な投資発表だけでなく、AIがインドの主力産業であるITサービスに与える影響についても率直な議論が交わされた。HCL CEOのVineet Nayyarは「インドのIT企業は雇用創出ではなく利益追求に集中する」と発言し、Khosla VenturesのVinod Khoslaは「ITサービスやBPO(業務プロセスアウトソーシング)は5年以内にほぼ完全に消滅する可能性がある」と警告した。こうした発言を受け、インドのIT関連株は下落している。
一方でKhoslaは、インドの2億5000万人の若者がAIベースの製品やサービスを世界に販売すべきだと提言しており、破壊と機会の両面が強調される形となった。インド発のスマートグラス「Sarvam Kaze」のティーザー発表や、音声・OCR・吹き替えなど複数のAIモデルを立て続けにリリースするSarvamの動きは、インド国内のAIスタートアップが着実に力をつけていることを示している。
今回のサミットは、AIインフラ投資の地理的分散、グローバルサウスにおけるAIガバナンスの主体的な関与、そして巨大な人口と技術人材を擁するインドの戦略的重要性を改めて浮き彫りにした。米中のAI競争に注目が集まるなか、インドが「第三極」として台頭しつつある構図も鮮明になった。
