- EtchedがシリーズCで3億ドルを調達し、評価額は2025年12月の50億ドルから103億ドルへ約7か月で倍増しました
- トランスフォーマーやMoE、Mambaなど多様なモデルに対応する推論特化チップを開発し、NVIDIA GPUに依存しない構成をうたっています
- SequoiaやAndreessen Horowitz、Thiel氏、Karpathy氏、SK Hynixが出資し、TSMCでの量産と10億ドルの受注残を実績に持ちます
103億ドルへの倍増
AI推論に特化したチップを開発する米Etchedが、シリーズCで3億ドルを調達し、評価額が103億ドルに達したと明らかにしました。同社は2025年12月に5億ドルを調達した際、評価額は50億ドルでした。つまり約7か月で評価額をほぼ2倍に押し上げたことになります。
共同創業者のRobert Wachen氏によれば、今回のラウンドはSequoia Capitalが主導するシリーズCとしては過去最高の評価額だといいます。AIインフラへの投資が一部で過熱を指摘されるなかでも、推論に絞った専用チップへの資金流入が続いていることを示す動きです。
推論特化チップの中身
Etchedは学習ではなく推論、つまり学習済みモデルを実際に動かす処理に絞ってチップを設計しています。GPUがあらゆる計算を汎用的にこなすのに対し、用途を限定することで電力効率と処理速度を高める狙いです。
具体的には2種類の部品を組み合わせます。1つは入力を読み込む段階を担う「プレフィル」向けチップで、競合より低い電圧で動かすことで発熱を抑え、トランジスタをより高密度に詰め込みます。もう1つは出力を生成する「デコード」向けの部品で、複数チップがメモリを高速かつ低遅延で共有できる構成をとります。
Wachen氏は、これらのシステムがトランスフォーマーだけでなく、DeepSeekやQwenが採用するMixture of Experts(MoE、複数の専門家モデルを切り替える方式)、さらに非トランスフォーマー型のMambaまで、事実上あらゆるAIモデルをGPUなしで動かせると説明しています。当初は「トランスフォーマー専用チップ」という発想に懐疑的な見方もありましたが、対応範囲の広さを前面に押し出しています。

豪華な投資家陣
今回のラウンドはSequoia Capitalが主導し、Andreessen Horowitz、SK Hynix、Jane Street、Diffusion Capitalが参加しました。半導体メモリ大手のSK Hynixが名を連ねている点は、供給網の面でも意味を持ちます。
個人としても、Peter Thiel氏、著名なAI研究者のAndrej Karpathy氏、Figma創業者のDylan Field氏、Replit創業者のAmjad Masad氏といった顔ぶれが出資しています。初期の投資家は、非公開のオフィスでのデモを通じて技術を確かめたうえで支援を決めたとされています。
TSMC量産と10億ドルの受注
Etchedはすでに台湾TSMCで最初のチップの量産に成功しており、完成したシステムは顧客によるテスト段階に入っています。受注残は10億ドルに達し、需要面での裏付けも伴います。
設備面では2メガワット規模のデータセンターを運用中で、加えてカリフォルニア州ミルピタスに約8万平方フィート、10メガワット規模の施設を新設しました。同社は2022年にハーバード大学を中退した3人、CEOのGavin Uberti氏、COOのWachen氏、CTOのChris Zhu氏が創業し、現在は約400人の従業員を抱えます。
NVIDIA一強に挑む意味
AI推論の市場はNVIDIAのGPUがほぼ独占してきました。しかしモデルが実運用フェーズに移るにつれ、学習用の汎用性より、動かすときの電力あたりの処理量やコストが重視されるようになっています。推論に特化したチップが投資を集めるのは、この構造変化を反映した動きといえます。
同様の潮流は他社にも表れており、たとえばSambaNovaも評価額110億ドルで10億ドルを調達するなど、GPU以外の選択肢を掲げる企業への資金が相次いでいます。専用チップは特定の用途で強みを持つ一方、モデルの設計が大きく変わった際に柔軟に追随できるかという課題も残ります。TSMCでの量産と10億ドルの受注残という具体的な実績を積み上げたEtchedが、この懸念にどこまで応えられるかが今後の焦点になります。
