- AI音声スタートアップVapiが5000万ドルのシリーズBを調達し、評価額約5億ドルを達成。Peak XV Partners主導でMicrosoft M12、Kleiner Perkins等が参加
- Amazon Ringは40社超のAI音声ベンダーを比較評価した末にVapiを選択し、着信コール100%を移行。導入後に顧客満足度スコアが改善
- 累計10億件超の通話を処理し、2025年初頭から企業向けビジネスが10倍規模に拡大。年次経常収益は8桁ドル台を達成
ホリデーシーズンが生んだ採用の決断
昨年第4四半期、Amazon Ringはホリデーシーズンに急増するカスタマーサポート電話への対応策を検討していました。選択肢は3つです。コールセンターの人員を増やすか、従来型の自動音声応答(IVR)を強化するか、AIエージェントを導入するか。この判断に向けて、同社は40社を超えるAI音声ベンダーを詳細に評価しました。
その末に選ばれたのがVapiです。現在、Amazon Ringへの着信コールは100%がVapiのプラットフォームを通じて処理されています。
Amazon RingのソフトウェアSVP Jason Mitura氏は「多くのAIツールが優れた成果を約束しているが、Vapiはそれを実際に届けてくれた」と述べ、導入後に顧客満足度スコアが向上したことを明らかにしました。エンジニアリングチームへの依存なしにAIエージェントの動作をチューニングできる点も、採用の大きな理由に挙げています。
40社を退けた「制御性」という差別化
VapiのCEO Jordan Dearsley氏は、Amazon Ringが同社を選んだ決め手を「エンジニアへの依存なく、AIエージェントの挙動をリアルタイムに細かく制御できること」と説明しています。企業向けAI音声市場では、機能の豊富さだけでなく、本番環境での信頼性とカスタマイズ性が選定基準になりつつあります。
AIエージェントが自然な会話を実現するには、話しながら聞ける全二重型の対話技術に代表される、遅れの少ないリアルタイムの音声処理基盤が欠かせません。Vapiはパッケージ型アプリではなくインフラとオーケストレーション層に特化した設計で、信頼性・コンプライアンス・モデル制御を重視するエンタープライズ顧客の要求に応えています。
創業の背景と急成長の軌跡
Vapiはもともと、Dearsley氏が2023年に日課の散歩中の対話相手として開発したAIセラピストから出発しました。University of Waterlooの同期Nikhil Gupta氏とともにY Combinatorを卒業後、生産性スタートアップSuperpoweredを運営していた両者は、AIセラピスト自体への需要は限られる一方、その基盤となる低遅延音声インフラへの引き合いが急増していることに着目してピボットします。2024年に現在の形でプラットフォームを公開しました。
プラットフォームの規模は、現時点で次のとおりです。
- 累計処理通話数: 10億件以上
- 1日の通話件数: 100万件から500万件
- 開発者向けセルフサーブ登録者: 100万人以上
- 企業向けビジネスの規模: 2025年初頭から約10倍に拡大
- 主要顧客: Amazon Ring、Kavak、Instawork、New York Life、UnityAI、Cherry、Intuit
この規模を先に積み上げていたことが、大型顧客の獲得につながりました。「大規模スケールでのバトルテストを経た状態で最初の大型エンタープライズ顧客に臨めた」とDearsley氏は語っています。
シリーズB調達と競合環境
今回の5000万ドルシリーズBはPeak XV Partnersが主導し、MicrosoftのM12、Kleiner Perkins、Bessemer Venture Partnersも参加しました。累計調達額は7200万ドルとなり、投資後評価額は約5億ドルです。年次経常収益(ARR)は「健全な」8桁ドル台に達しているとされ、資金はエンジニアリング、インフラ、販売体制の拡充に充てられます。現在の従業員数は約100人です。
AI音声エージェント市場にはSierra、Decagon、PolyAI、Bland、Retell、ElevenLabsといった有力スタートアップが競合として存在します。Dearsley氏はVapiの差別化を「パッケージ型アプリではなく、インフラとオーケストレーション層への特化」と位置づけました。「モデルというイレギュラーな存在を制御する。それができれば世界に価値を提供できる」という言葉に、同社がインフラ企業としてAI音声市場に臨む姿勢が表れています。
