- 2026年6月2日、トランプ大統領が署名した大統領令により、NSA・CISA・NISTなどがフロンティアAIモデルを公開前に検査できる任意の枠組みが発足した
- OpenAI・Anthropic・Google・Microsoft・xAIなど主要AI5社が対象で、モデル公開の30日前に政府へ事前通知することが参加の前提となる
- 強制力はないが政府調達への影響を通じて実質的な参加圧力が生じやすく、60日以内に策定される評価基準の細則が企業対応の分岐点となる
大統領令の概要
2026年6月2日、トランプ大統領は「先端AI革新と安全保障の推進(Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security)」と題した大統領令に署名した。最先端の大規模言語モデル(LLM)や生成AIモデルを政府が公開前に検査できる枠組みを、米連邦政府として初めて制度化したものだ。
前政権のバイデン大統領令が大手AI企業に安全テストの結果共有を義務づけていたのとは対照的に、今回の枠組みは任意参加を原則としている。企業の自主的な開発姿勢を尊重しながら、安全保障上のリスクが特に高いとされるモデルについては政府が確認できる仕組みを整えた形だ。
検査の仕組みと対象モデル
大統領令の発効後60日以内に、国家安全保障局(NSA)・サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)・国立標準技術研究所(NIST)の3機関が評価基準を策定することが求められている。策定された基準を適用した結果、高度なサイバーセキュリティ脅威を引き起こす可能性があると評価されたモデル(covered frontier model)は、NSAの精査対象となる。
検査に参加する企業は、モデルの一般公開30日前に政府へ事前通知する必要がある。この通知を受けた各機関が安全保障上のリスク評価を実施し、必要に応じて企業と調整を行う流れとなっている。検査の結果として公開が差し止められる強制力は持たない設計だが、政府との対話チャネルが正式に設けられる点に意義がある。

主要AI企業への影響
法律事務所WilmerHaleの分析によれば、Anthropic・OpenAI・Microsoft・xAI・Googleの5社が枠組みの主要な対象として想定される。これらの企業はすでに独自の安全評価(レッドチーム評価など)を実施しているが、今後は連邦政府との調整ステップが加わることになる。Alphabetが発表した800億ドル規模のAIインフラ投資計画にも見られるように、開発競争が加速するなかでリリーススケジュールの策定に新たな変数が生まれる。
とくに実務レベルで影響が大きいのは、モデル公開のタイミングに関する社内計画だ。30日前通知の要件が徹底されれば、政府との調整期間をあらかじめ見込んだうえでリリース日程を設定しなければならない。競合他社との先行公開を競うなかで、この変更が開発戦略の見直しを促す場面も出てくるだろう。
EUや州規制との位置づけ
欧州連合(EU)のAI規制法(AI Act)やカリフォルニア州のSB 1047に代表される法規制が企業に義務を課す設計なのに対し、今回の大統領令は強制力のある規制とは性格が異なる。ただし、連邦政府との契約や調達市場へのアクセスを重視する大企業にとっては、実質的な参加圧力が生まれやすい構造だ。参加しないことが政府関係者の評価に影響する可能性を、大手企業は無視しにくい。
最終的な影響の大きさは、今後60日以内に策定される評価基準の細則にかかっている。開示要件の範囲や基準の厳密さによって企業の対応コストは大きく変わりうる。米国が連邦レベルでAIリリース前審査に踏み込んだことは他の主要国の政策立案にも波及する可能性があり、細則の策定プロセスが今後の焦点となる。
