- Sakana AIが再帰的自己改善(RSI)を専門とする研究チーム「RSI Lab」を2026年6月6日に設立し、AIがAIを改善する研究を本格化させた
- 「大量の計算資源ではなくアイデアで進歩する」を基本方針とし、スケーリング一辺倒の現行開発路線に代替アプローチを提示
- オックスフォード・ケンブリッジ・UBCとの共同研究「LLM-Squared」「Darwin Godel Machine」を基盤に、研究を体系化
RSI Labとは何か
Sakana AIは2026年6月6日、再帰的自己改善(Recursive Self-Improvement、RSI)を専門に研究する「RSI Lab」の設立を発表しました。RSIとは、AIシステムが自分自身の性能や学習アルゴリズムを繰り返し改善していく技術の総称です。改善されたAIがさらに次の改善を生み出すサイクルが続くため、「再帰的」と呼ばれます。
同ラボはリサーチサイエンティストとソフトウェアエンジニアで構成された専門チームです。自然界の進化や群れ知性からヒントを得た研究で知られるSakana AIにとって、RSI Labの設立は「AI自体が次世代AI開発を担う」という方向性を具体的な組織として形にした動きといえます。
「計算量より知恵」を方針に
RSI Labが掲げる基本方針は、「進歩の源泉は計算資源の量ではなくアイデアにある」というものです。現在のAI開発の主流は、大量のGPUと膨大なパラメータ数を持つモデルを用いるスケーリング戦略です。GoogleやOpenAI、Anthropicなど大手企業は数千億円規模の計算インフラへの投資を競っており、モデルの規模を拡大することで性能向上を図るアプローチが業界の標準となっています。
RSI Labはこれとは一線を画し、「現実的な規模の計算資源」で性能向上を実現する方法を探ります。巨大な計算インフラを必要としないアプローチが成功すれば、資本力の乏しい研究機関や中小規模のチームでも競争力のあるAI開発が可能になります。AI研究の多様性を守るという観点からも、この方針が持つ意義は大きいといえるでしょう。

先行研究が示す方向性
RSI Labの立ち上げには、Sakana AIがこれまで積み重ねてきた複数の共同研究成果が直接の土台となっています。オックスフォード大学・ケンブリッジ大学と共同で進めた「LLM-Squared」では、大規模言語モデル(LLM)が別のLLMにとって効率的な学習手法を自動的に開発できるかどうかを検証しました。この取り組みは、AIが「他のAIの学習方法を設計する」という方向性を具体的に示すものです。
また、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)との共同研究「Darwin Godel Machine」では、AIが自らのコードを書き換えながら性能を改善するシステムを構築しました。自律的な自己書き換えと性能改善のサイクルを実装したこの研究は、AIによるAI開発という領域が実用段階に着実に近づいていることを示しています。こうした先行成果が、RSI Labの活動基盤を形作りました。
AI研究の方向性への示唆
自己改善型AIの研究は、MLEvolveのような自己進化LLMエージェント研究とも方向性を共有しており、複数のグループが同様のアプローチを独立して追求していることがわかります。AIが自律的に自己を改善していく仕組みが成熟すれば、性能向上のサイクルを人間の設計作業から段階的に切り離せる可能性があります。
スケーリングに伴う計算コストの急騰が業界課題となる中で、RSI Labが示す「アイデア主導の改善」という路線は一つの現実的な選択肢です。「計算なき進歩」をどこまで実証できるかが、今後の研究の焦点となるでしょう。