- Soraのユーザー数は最大約100万人から50万人以下に急落したにもかかわらず、日次運用コストは約100万ドル(約1億4千万円)が継続し、採算の見通しが立たなかった
- Anthropicの「Claude Code」がソフトウェアエンジニアと企業顧客を侵食し続けたことで、OpenAIはコンピュート資源をコーディングAIに集中させる戦略的判断を下した
- ディズニーとの10億ドル規模の提携は、Sora終了の一般公表から1時間未満前に初めて通知されたうえで破談となり、決断の拙速さを象徴した
突然終了と初期の疑惑
OpenAIのAI動画生成ツール「Sora」が2026年3月下旬、公開からわずか約6か月でサービスを終了した。アプリがユーザーに顔写真のアップロードを促す仕様だったことから、「大規模なデータ収集を目的とした意図的な終了ではないか」という憶測がSNSを中心に広まった。
しかしWSJが独自取材をもとに報じた調査によれば、真相はより平凡だった。「Soraは誰も使わない赤字製品であり、存続させることでOpenAIはAI競争で不利な立場に置かれていた」というのが実情だ。プライバシースキャンダルでも技術的な欠陥でもなく、シンプルな経済合理性の問題だった。
ユーザー急減と日次100万ドルの損失
Sora公開後、世界のユーザー数は最大約100万人に達した。しかしその後50万人以下へと急落し、最盛期の半数以下の水準にとどまった。にもかかわらず、毎日約100万ドル(約1億4千万円)の運用コストが発生し続けた。
この費用は利用者数に比例して生じているわけではない。動画生成という処理そのものが、テキスト生成と比べて桁違いに計算コストの高い技術だからだ。ユーザーが架空のシーンを1本生成するたびに有限なAIチップを大量に消費する構造があり、利用率が低くても固定的な損失が積み上がる。動画AIビジネスの根本的なコスト課題が数字として露呈した形だ。
Claude Codeに侵食されたシェア
OpenAI社内でSoraの開発チームが奮闘していた間、ライバルのAnthropicは静かに収益基盤を固めていた。特に「Claude Code」がソフトウェアエンジニアや企業顧客の間で急速に普及し、OpenAIの主要収益層を侵食した。WSJの報道は「Claude CodeはOpenAIのビジネスを食い荒らしていた」と表現している。
AnthropicはClaudeの有料ユーザーを今年度2倍以上に急増させており、コーディング支援の領域でOpenAIとの差を広げつつある。収益性の高い開発者・企業市場を競合に奪われている状況で、コンピュート資源をSoraに振り向け続けることは競争上のリスクとなっていた。
ディズニー10億ドル契約の消滅
この撤退がいかに急だったかを物語るのが、ディズニーとの提携破談だ。WSJによれば、エンターテインメント大手ディズニーはSoraへの活用に向けて10億ドル規模のコミットメントを約束していた。しかしSoraのサービス終了を通知されたのは、一般公表の1時間未満前だったという。
交渉の再検討も代替案の協議もないまま、10億ドルの大型契約は事実上消滅した。OpenAIが経営判断のスピードを絶対的に優先させた結果であり、長期パートナーシップの構築よりも内部の資源再配分が急務と判断されたことを示している。
コンピュートの再配分と教訓
Sam Altman CEOの判断は明快だった。Soraを終了し、解放されたコンピュート資源をコーディング向けAIに集中させる、という戦略的転換だ。動画生成はコストが高く収益化が難しい一方、コーディング支援は開発者・企業という高付加価値な市場に直結する。
Soraの終了はAI事業の収益構造に関する普遍的な問いを提起した。高品質な生成AIを維持するには膨大なコンピュート資源が必要だが、ユーザーの定着と収益化を両立させることは容易ではない。「何を作るか」だけでなく「何をやめるか」という判断が、AI競争での存続を左右する時代に入りつつある。
