- マスク氏は法廷で、自社xAIがOpenAIのモデルを「部分的に蒸留している」と認め、法廷内から驚きの声が漏れた(MIT Technology Review法廷取材報道)
- 「3800万ドルを無償提供した愚か者だった」と陪審員に証言し、OpenAIが8000億ドル規模の企業に成長した経緯への不満を訴えた
- OpenAI側弁護士は2017年の従業員引き抜きメールを証拠提出し、マスク氏の提訴の動機は競争排除にあると主張した
裁判の背景と第1週の概要
2026年4月28日からカリフォルニア州オークランドの連邦地方裁判所でマスク対オルトマン裁判の審理が始まり、第1週が終了した。イーロン・マスク氏本人が証人台に立ち、OpenAIの非営利から営利への転換の合法性を問う争いが本格化した。法廷にはOpenAI社員や多数のメディアが集まり、裁判所の外では抗議者たちがChatGPT離脱やテスラ不買を呼びかける様子がMIT Technology Reviewのレポーターによって伝えられた。
同誌の法廷取材によれば、マスク氏は陪審員に向けて「私は無償で資金を提供した愚か者だった」と述べた。続けて「3800万ドルの実質的な無償資金を彼らに提供し、それが最終的に8000億ドル規模の企業の礎となった」と主張した。マスク氏は本裁判で、Altman氏とBrockman氏の解任と、非営利法人から営利子会社への転換の無効化を求めている。
AI安全性をめぐる攻防
マスク氏は直接尋問の中で、OpenAI設立の動機としてAI安全性への懸念を挙げた。当時AI開発をリードしていたGoogleへの対抗策として設立を提唱したと説明し、「最悪のシナリオはターミネーターのような状況でAIが人類を滅ぼすことだ」と陪審員に述べたとMIT Technology Reviewは伝えている。
これに対しOpenAI側弁護士のWilliam Savitt氏は、xAIが2026年4月にコロラド州のAI差別防止法に対して訴訟を起こしている事実を指摘し、マスク氏が真のAI安全の守護者ではないと反論した。Yvonne Gonzalez Rogers判事は白熱する議論を制し、「これはAIが人類に害を与えたかどうかを裁く裁判ではない」と釘を刺した。「人類の未来をマスク氏の手に委ねることを望まない人も大勢いるだろう」と述べたとも報じられている。
xAIによるOpenAIモデル蒸留の認定
今週最も注目を集めたのは、xAIによるOpenAIモデルの蒸留(ナレッジ・ディスティレーション)に関する証言だった。Savitt弁護士の執拗な質問に対し、マスク氏はxAIが「部分的に」OpenAIのモデルを蒸留していると認めた。MIT Technology Reviewによれば、この発言が伝わった瞬間、法廷内では驚きの声が上がったという。
蒸留とは、大規模な「教師モデル」の挙動を小規模な「生徒モデル」に模倣させる学習手法で、推論コストの低減と処理速度の向上を目的とする。OpenAIはその利用規約でGrokのような競合サービスへの蒸留を禁じており、2026年2月にはBloombergの報道を通じて中国のDeepSeekによる蒸留疑惑を指摘していた経緯がある。マスク氏は「他のAIを使って自社AIを検証することは標準的な手法だ」と反論したが、知財・競争法の観点から今後の主要争点となる可能性がある。

従業員引き抜きと競争排除の疑い
Savitt弁護士はさらに、マスク氏がOpenAIの従業員を自社企業に引き抜いていた実態を示す複数のメールを法廷に証拠として提出した。OpenAI創業メンバーのAndrej Karpathy氏をテスラへ迎えた直後にマスク氏がテスラ副社長に宛てたメールには「OpenAIの連中は俺を殺したがるだろうが、やるしかなかった」と記されていた、とMIT Technology Reviewは報じている。マスク氏はこの件について「Karpathy氏はすでに自らOpenAIを去ることを決めていた」と反論した。
Neuralink共同創業者へのメールでは「OpenAIから直接あるいは独自に採用できる」と記していたことも証拠提出された。マスク氏は「採用は自由市場の原理であり制限できない」と述べたが、Savitt弁護士は一連のメールをもとに、提訴の真の動機は競合の弱体化にあるとの主張を強化した。
裁判の行方とAI業界への影響
本裁判の判決は、AI業界のガバナンスモデル全体に波及しうる。OpenAIは評価額1兆ドル規模を目指すIPOに向けた組織転換を進めており、その法的正当性が正面から問われている。一方でxAIはSpaceXの一部として2026年6月にもIPOを目指すとBloombergは報じており(目標評価額1兆7500億ドル)、両社のIPO競争が訴訟と並走する異例の状況だ。OpenAIが7大グローバルSIと提携しエンタープライズ展開を加速させる中、その組織的正当性に対する司法判断の意味合いは重い。
第2週にはUCバークレーの計算機科学者Stuart Russell氏がAI安全性について証言する予定で、Brockman氏も証人台に立つ見通しだ。蒸留をめぐる知財問題、設立時の契約解釈、OpenAIガバナンスの合法性という3つの争点がどう決着するかは、AI企業全体の資金調達と組織設計のあり方に長期的な影響を与えうる。
