- AmazonのCEOアンディ・ジャシーが2026年6月上旬、Anthropicのモデル「Fable 5」でサイバー攻撃に利用可能な情報を取得できたと、スコット・ベッセント財務長官らに直接報告していたことが明らかになった
- 政府はこの報告を受け、6月12日にFable 5とMythos 5に輸出規制を適用し、Anthropicが世界的なアクセス遮断を余儀なくされた
- Anthropicの主要投資家であるAmazonが自社出資先のAIモデルを当局へ問題報告するという異例の構図が、AI安全保障における利害関係の複雑さを浮き彫りにしている
ジャシーCEOが財務長官に直接報告
TechCrunchの報道によれば、AmazonのCEOアンディ・ジャシーは2026年6月上旬、スコット・ベッセント財務長官をはじめとする政府高官との協議の場で、AnthropicのモデルFable 5に重大な懸念を伝えていた。Amazonの研究者がFable 5を使用し、サイバー攻撃に利用可能な情報を取得できたという事実を、ジャシー本人が直接当局者に報告したとされる。
トランプ政権で前AI担当高官を務めたデイビッド・サックスはXへの投稿でこの経緯を認めており、「信頼できるパートナーがジェイルブレイクについて報告してきた。政府は修正または配置解除を求めたが、Amodeiが拒否した」と述べている。ここで「信頼できるパートナー」はAmazonを指すとみられ、AnthropicのCEOダリオ・アモデイが是正要求を拒んだことが停止命令の直接的な引き金になったと考えられる。
Fable 5とMythos 5が停止された経緯
政府からの報告を受け、財務省は2026年6月中旬にAnthropicの「Fable 5」と「Mythos 5」の両モデルに輸出規制を適用した。Anthropicは6月12日、両モデルへの世界的なアクセス遮断を発表している。停止命令の詳細と安全性戦略が招いた皮肉な構図については既報のとおりだが、今回の報道でその背景となった経緯が初めて明らかになった形だ。
Fable 5はAnthropicが2026年に公開した汎用大規模言語モデル(LLM)であり、マルチモーダル機能と高い推論性能で注目を集めていた。Mythos 5はFable 5と同時期に公開された推論特化型モデルで、数学・科学分野での高精度な推論を訴求していた。今回の安全審査ではFable 5の懸念が発端となったが、Mythos 5も同じく軍事・サイバー安全保障上のリスク区分に分類され、Fable 5とほぼ同時に停止対象に含められた。

Amazonの複雑な立場
今回の構図でとりわけ注目されるのが、AmazonとAnthropicの関係性だ。Amazonはこれまでに数十億ドルをAnthropicに出資しており、同社の主要投資家として位置づけられている。財務的リターンを追求する立場でありながら、その出資先のAIモデルを政府に問題報告するという行動は、少なくとも表向きは、AI安全保障に対するAmazon経営陣の優先順位が財務的利益を上回っていることを示している。
ただし別の見方もある。Amazonは自社のAIプラットフォーム「Amazon Bedrock」でAnthropicのモデルを提供しながら、独自のAIサービスとの競合関係も抱えている。ジャシーの報告が純粋な安全上の懸念によるものか、それとも競争上の動機も含まれていたのかは、現時点では判断できない。
Anthropicの反論と今後の焦点
Anthropicは今回の停止命令に対し、「問題とされている機能はほかの公開モデルでも既に利用可能だ」と反論している。同社はこれまでも「Constitutional AI(憲法的AI)」と呼ばれる安全性重視の開発手法を強調してきたが、政府の判断との齟齬が同社の安全性哲学をめぐる議論を呼んでいる。停止措置に関するAnthropicの追加コメントは現時点で確認されていない。
この一件は、AI企業と政府の関係に新たな問いを突きつけている。AIモデルの安全性審査をどの基準で行うのか、そして投資家でもある企業が当局への問題報告に関与することが適切かどうか、業界として明確なルールはまだ存在しない。輸出規制という手段を用いた今回の対応が今後のAI規制の先例となる可能性は十分にあり、業界全体の注目が集まっている。
