- パロアルトネットワークスの染谷征良氏が、手作業で2日かかるサイバー攻撃の工程が生成AI活用で25分に短縮されたラボ実証結果を公表しました
- インシデント対応部隊Unit 42の分析では、87%のケースで攻撃の兆候がログに残っていたのにリアルタイム検知できていませんでした
- 必要なのは新しい対策ではなく、防御側もAIと自動化を使いマシンスピードの攻撃に即応する体制づくりだと提言されました
2日の攻撃が25分に短縮
米パロアルトネットワークスのチーフサイバーセキュリティストラテジストである染谷征良氏は、ソフトバンクが2026年7月14日に開催した年次イベント「SoftBank World 2026」の講演で、最先端AI(フロンティアAI)がサイバー攻撃を大きく変えつつある現状を解説しました。
染谷氏によれば、AIは人間が見つけられなかった脆弱性を高速で発見できるうえ、それを悪用する攻撃コードの作成もわずか15分ほどで済むようになっています。アプリケーション全体の構造を理解したうえで、単体では深刻度の低い複数の脆弱性を組み合わせ、より深刻な攻撃に仕立てることもできるといいます。
攻撃全体のスピードも桁違いに上がっています。従来、攻撃者がネットワークに侵入してから情報を盗み出すまでの時間は、早いケースでも平均72分ほどでした。ところが同社のエンジニアがラボ環境で行った実証実験では、人が手作業で行えば2日ほどかかる一連の攻撃工程が、生成AIを使うと25分にまで縮んだそうです。染谷氏は、今後さらに速くなるのは時間の問題だとの見方を示しました。

被害が続く3つの要因
染谷氏は、こうした被害がなくならない背景に「人依存の限界」「アイデンティティの弱点」「対策の複雑化」という3つの要因があると指摘します。
1つ目の人依存の限界を象徴するのが、なりすましメールです。かつては日本語として不自然な文字や文法の誤りが偽物を見分ける手掛かりでしたが、生成AIが作る文面からはそうした痕跡が消えつつあります。従業員の判断力に頼る標的型メール訓練は、成立しにくくなっているとのことです。
2つ目のアイデンティティ(ID・認証情報)の弱点も深刻です。Unit 42は世界で年間1000件以上の事案に対応していますが、その約9割で攻撃者がアイデンティティを標的にしていました。簡易なパスワードの使い回しや多要素認証の未導入など、権限管理の隙を突くケースが目立ちます。
3つ目は対策の複雑化です。領域ごとに異なるベンダーからツールを個別に調達する「ベスト・オブ・ブリード」型が主流だった結果、対策だけでなく運用や監視までもがサイロ化し、ツールや担当ごとに情報が分断される状態に陥っているといいます。

87%が見逃されている
サイロ化の代償は、検知の遅れとして表れます。パロアルトネットワークスが対応したインシデントを分析したところ、87%のケースで攻撃の兆候がログに残っていたにもかかわらず、リアルタイムでは検知できていませんでした。
個々の操作を単体で見ても、正規ユーザーによるものか攻撃者の活動かを判別するのは困難です。データの窃取や横展開(ネットワーク内の他システムへ侵入を広げる行為)といった重要な動きを捉えるには、点ではなく線で挙動を追う監視が欠かせないと染谷氏は強調しました。
自律型攻撃も現実に
自律的な攻撃も現実味を帯びています。英国政府がAIの安全性を評価するために設立した「AIセキュリティ・インスティテュート」は、各社のフロンティアAIモデルを使ったサイバー攻撃のテストを実施しており、AIが人の介在なしに攻撃を完遂できたケースも確認されています。
染谷氏は、フロンティアAIの脅威というと未知の脆弱性を高速で見つける探索能力に注目が集まりがちですが、それにとどまらないと指摘します。攻撃の精度、スピード、自律性が同時に高まっている点にこそ、警鐘を鳴らしました。
防御側に求められる対応
では、企業はまったく新しい対策を迫られるのでしょうか。染谷氏の答えは「そうではない」というものです。変わるのは、従来から求められてきた対策の重みとスピード感だといいます。脆弱性管理ツールで見つけた問題の放置や、大量のアラートへの対応の遅れは以前からの課題でしたが、機械のスピードで攻撃してくるAIの前では、こうした遅れが致命傷になりかねません。
各国の公的機関も同じ方向を示しています。英NCSC(国家サイバーセキュリティセンター)などのガイダンスは、脆弱性対応にとどまらず、現在の対応能力の全体評価と課題の洗い出し、増加が見込まれる修正パッチへの対応体制の整備、そして経営層自らがセキュリティをけん引することを共通して挙げています。
その上で染谷氏は、リスク評価をAIに任せて人は最終判断に絞るなど、防御側もAIと自動化を徹底的に活用し、マシンスピードの攻撃にリアルタイムで対抗する必要があると説きました。生成AIがセキュリティの攻防を同時に変えつつある動きは、AIの安全ガードレールがかえって防御側の研究を妨げるという指摘とも重なり、攻守双方でAIをどう使いこなすかが問われています。
