- Signal会長ウィッタカー氏がBloombergのインタビューで「AIチャットボットは友人でも意識ある存在でもない」と明言し、AI企業の設計手法を批判した
- Microsoft Copilotを具体例に、クレジットカード・メッセージ・カレンダーなど個人データへの包括的アクセスを「バックドア的」と指摘
- ウィッタカー氏は自身のAI利用を文書整形のみに限定し、AIが思考プロセスに与える影響を懸念するとした
Bloombergインタビューでの発言
暗号化通信アプリSignalのメレディス・ウィッタカー会長は、2026年6月のBloombergとのインタビューでプライバシーとAIについて語り、生成AIチャットボットへの強い警告を発しました。ウィッタカー氏は「これらはあなたの友達ではなく、意識ある存在でもない」と明確に述べ、ChatGPTやClaudeのようなサービスに感情的な親しみを持って接するリスクを指摘しました。
Signalはエンドツーエンド暗号化を特徴とするメッセージングアプリであり、ウィッタカー氏はプライバシー技術の第一人者として知られています。AI産業の内側から発せられた今回の発言は、業界全体への問題提起として広く注目を集めています。
「友人」のように見せる設計を批判
ウィッタカー氏が問題視したのは、AI企業がユーザーとの感情的な結びつきを意図的に演出している点です。ChatGPTやClaudeといったAIアシスタントは、親しみやすい口調や共感的な応答によってユーザーの信頼を獲得するよう設計されています。しかし同氏はこのような設計を「意識ある存在であるかのような印象を与えるもの」と位置づけ、その欺瞞性を批判しました。
また、ウィッタカー氏はAIとの対話が思考プロセスに与える影響にも懸念を示しました。AIが提示する回答は学習データの「平均」に過ぎず、それに依存することで自分自身の思考が既存データの傾向に誘導されてしまうリスクがあると指摘しています。自律的な判断や創造性が、気づかないうちに損なわれていく可能性を同氏は問題視しています。
Microsoft Copilotを具体例に
ウィッタカー氏はMicrosoft AIのCEOが提案したとされる「Copilotがクリスマスの買い物を代行する」というユースケースを取り上げ、プライバシー上の問題点を具体的に示しました。この機能を実現するためには、AIアシスタントはクレジットカード情報・ブラウザ履歴・Signal上のメッセージ・メッセージ送信権限・自宅の住所・カレンダーなど、ユーザーの個人データへの広範なアクセス許可が必要になります。

ウィッタカー氏はこのようなアクセス権の付与を「バックドア的なシステムアクセス」と表現しました。利便性という名目のもとで個人情報を包括的に提供させる構造を問題視したわけです。AIエージェントが検索クエリを通じて機密情報を漏らすリスクも研究で指摘されており、AIへのデータ提供には慎重な判断が求められます。
自身のAI利用は最小限に
ウィッタカー氏は自らのAIとの関わり方についても率直に語りました。同氏はAIツールの利用を極力避けており、使うとしても文書の整形といった限定的な用途にとどめているとのことです。思考や判断に関わる領域にAIを介在させることへの強い警戒感が表れています。
この姿勢はSignalが掲げるプライバシー哲学と一貫しています。Signalはユーザーデータを広告や機械学習に利用しないという原則を守り続けており、プラットフォーム自体にAIチャット機能も搭載していません。Signalの設計思想そのものが、ウィッタカー氏の主張の裏付けとなっています。
利用者に求められるリテラシー
ウィッタカー氏の発言はAIを日常的に使う開発者やビジネスパーソンにとっても重要な問いかけです。生成AIの活用が急速に広がる中で、ツールとの適切な距離感をどう保つかという問題は、個人の生産性にとどまらず思考の自律性にも関わります。
「友人」のように振る舞うよう設計されたAIに対して、ユーザーが批判的な視点を持ち続けることが、AI時代におけるリテラシーの一つとなっています。AI開発各社の設計思想と自らのデータがどう扱われるかを理解した上で活用することが、今後ますます重要になるでしょう。
