- DecartがOasis 3をAPI公開。自動運転テスト向けフォトリアル走行環境を1秒あたり$0.02から即日利用可能
- 自己回帰型アーキテクチャで1フレームあたり約8,000トークンを処理し、前方1台・側方2台の複数カメラ映像をリアルタイム生成
- 長時間シミュレーション時の環境整合性低下と衝突物理の欠陥という現状の制限を開発元が明示
Oasis 3の概要
AIスタートアップのDecartは2026年6月10日、自動運転開発者向けの世界モデル「Oasis 3」をAPIとして一般公開しました。走行環境をフォトリアルな映像としてリアルタイム生成し、自動運転車の稀少シナリオテストを大規模に実施できるとしています。
このリリースが注目される背景の一つが、発表当日からAPIとして利用できる点にあります。これまで自動運転テスト用シミュレーションの多くはプロプライエタリな(非公開の)環境に閉じており、外部からのアクセスが限られていました。Oasis 3はその参入障壁を下げ、スタートアップから大手OEM(相手先ブランドによる製造)まで同一インフラでアクセスできる形を目指しています。
主な機能と料金体系
Oasis 3の主要機能は、テキストプロンプトから走行シナリオを無限に生成する点にあります。雨天・夜間・霧といった多様な気象条件や、急ブレーキ・緊急回避といった特殊状況を指定するだけで、対応する映像環境が生成されます。
カメラ配置は前方1台と側方2台の計3台分に対応しており、実際の自動運転センサースタックに近い構成を再現できます。連続シミュレーション時間は数時間単位まで対応しているとしています。
- API料金: 1秒あたり$0.02(約3円)
- エンタープライズ向け: ユースケースに応じた個別料金
- 対応カメラ数: 前方1台 + 側方2台
- 対象ドメイン: 自動運転、ロボティクス、物理AIシステム
1時間のシミュレーション換算で約72ドルになる計算です。実際の公道テストに必要なコスト(車両費、ドライバー費、保険料、特定ルートの確保など)と比較すれば、稀少シナリオを量産するユースケースでは一定のコスト優位性が期待できます。
技術アーキテクチャ
Oasis 3の内部は自己回帰型(auto-regressive)アーキテクチャを採用しています。1フレームを生成するために約8,000トークンを処理し、秒間数十フレームの速度で走行映像を出力します。
このアーキテクチャは大規模言語モデル(LLM)と共通の構造を持ちますが、テキストではなく走行映像フレームをトークンとして扱う点が異なります。潜在空間メモリを活用した動画ワールドモデルの高速化研究でも示されるように、フレーム列を長期にわたって生成するためのコンテキスト管理は、このクラスのモデルで共通の技術課題となっています。Oasis 3も1フレームあたりの処理トークン数が多い分、長時間生成時の整合性維持が難しくなります。

現状の制限と課題
Decartは今回のリリースにあたり、Oasis 3が抱える制限事項を明示しています。長時間シミュレーションにおける環境整合性の低下が主要な課題で、生成時間が長くなるほどシーンの一貫性が失われやすくなります。これは自己回帰型モデルが長期的な依存関係を保持しにくいという構造的な特性を反映しています。
物理シミュレーションの精度にも制限があります。車両が他の車両を通り抜けてしまうような衝突物理の欠陥は、事故シナリオのテストにおいて問題になりえます。さらに操作入力への応答遅れや、コンテキストウィンドウの容量制約も現時点での課題として挙げられています。
Decartはこれらの制限を製品ページで明示しており、現時点での主な用途を視覚的なシナリオ生成に置いています。物理精度を要する用途への適用には注意が必要と説明しており、透明性のある姿勢を示しています。
自動運転業界への展望
自動運転システムの安全性検証には、公道テストだけでは収集困難な稀少シナリオ(急な割り込み、異常気象、想定外の歩行者挙動など)を大量に網羅する必要があります。APIベースの世界モデルが普及すれば、これらのシナリオを低コストで量産できる可能性があります。
Decartは今後、ロボティクスやその他の物理AIシステムへの対応拡大も視野に入れているとしています。現段階では物理精度に制約があるものの、フォトリアルな視覚入力を必要とするシステムの知覚レイヤー検証には既に活用できるとしており、段階的な改善を経て適用範囲が広がる見通しです。
