- avatarinがOpenAIのGPT-Realtimeを基盤に、ヤマダ電機向けの24時間稼働する多言語音声接客AIエージェントを実装した
- 2026年3月の約2週間の体験キャンペーンで約3万人が利用し、アンケート回答の92%が肯定的な評価を示した
- RAGで商品情報に紐付けて正確さを保ちつつ、AIが客に質問を返す能動的な接客フローを設計した
2週間で3万人が使った接客AI
OpenAIは2026年、ANAホールディングス発のスタートアップavatarin(アバターイン)が、同社の音声AIモデルGPT-Realtimeを使ってヤマダ電機向けの接客AIエージェントを構築した事例を公開しました。パソコンやタブレット、スマートフォンから利用でき、営業時間に縛られずに24時間、多言語で商品相談に応じます。
ヤマダ電機を運営するヤマダホールディングスとavatarinは業務提携を結んでおり、今回のエージェントはその成果の一つにあたります。2026年3月3日から3月16日までの約2週間、EC上で体験キャンペーンを実施したところ、約3万人が実際に会話を試しました。
回答したアンケートのうち92%が肯定的な評価だったとされ、リアルタイム音声AIが小売の接客現場で使える段階に入りつつあることを示しています。
音声を担うGPT-Realtime
GPT-Realtimeは、音声、テキスト、画像をまとめて扱えるOpenAIのマルチモーダルモデルです。従来の音声アシスタントは、音声をテキストに変換し、応答文を作り、それを読み上げるという複数の処理を順番につなぐ構成が一般的でした。
この方式では各段階で遅延が積み重なり、人と話しているような自然なテンポになりにくいという課題がありました。GPT-Realtimeは音声を直接処理することで、聞き取りから応答までの間を短く抑え、会話の途中で言い直したり割り込んだりする動きにも対応しやすくなっています。
avatarinはこのモデルを、自社の接客プラットフォーム「a-commerce」に組み込みました。商品情報については検索拡張生成(Retrieval-Augmented Generation、RAG)を使い、モデルの回答を実際の在庫や仕様のデータに紐付けています。

図に示すように、利用者の音声はGPT-Realtimeが受け取り、商品に関する事実はRAG経由で商品データベースに照合されます。この組み合わせが、自然な会話と情報の正確さを両立させる土台になっています。
速さと正確さを両立する設計
avatarinは、実用に耐える接客エージェントを作るうえで3つの要件を掲げました。第一に、会話のテンポを落とさずに商品情報の正確さを保つことです。家電の型番や価格を誤って案内すれば信頼を失うため、RAGで一次情報に照合しながら応答します。
第二に、ヤマダ電機の店員が培ってきた接客の話法を、会話の流れやプロンプトに組み込むことです。単に質問へ答えるだけでなく、用途や予算を踏まえて候補を絞り込む店頭のやり取りを再現しようとしています。
第三の要件が、AIが質問する側に回る設計です。利用者が漠然とした相談を投げかけたときに、条件を聞き返して要望を具体化します。受け身のチャットボットとの違いは、この能動性にあります。
利用者の92%が肯定的に評価
体験キャンペーンでは、利用者から「実際の店員よりも話しやすい」「気兼ねなく何度でも聞き直せる」「閉店後にも質問できる」といった声が寄せられました。対面では遠慮しがちな細かい質問を、相手を気にせず繰り返せる点が評価されたようです。
avatarinの深堀氏は、顧客が求めているのはチャットボットではなく知性だと述べています。定型の回答を返す仕組みではなく、客の文脈をくみ取って対話する能力こそが接客の本質だという考え方です。
OpenAIとavatarinはこれ以前にも、音声認識や問い合わせ分析、従業員の研修支援などで協業を重ねてきました。今回の接客エージェントは、そこで蓄積した知見を初めて本格的に顧客と向き合う場面へ投入した事例と位置付けられています。
接客の統合をめざす次の段階
現時点でのエージェントは、EC上での商品選びに特化した「ラボ」段階にあります。avatarinはこれを出発点として、ウェブ、電話、実店舗をまたいで同じ知性が客の文脈を引き継ぐ統合的な接客像を構想しています。
OpenAIは専門領域の現場にAIエージェントを投入する事例も公開しており、ゲノミクス研究を加速させる取り組みと同様に、業務をエージェントが支える流れが広がりつつあります。小売接客はその中でも、不特定多数の一般利用者と日常的に接する点に特徴があります。
顧客データ基盤との連携や、実店舗端末への展開は今後の課題として残されています。国内大手小売での24時間多言語接客という具体的な実装は、リアルタイム音声AIの実務適用を考えるうえで一つの参照点になりそうです。