- フィナンシャル・タイムズ(FT)報道によれば、両社に出資する匿名投資家がOpenAIの最新ラウンドを正当化するにはIPO時価総額1.2兆ドル以上が必要と試算
- Anthropicの年換算収益は2025年末の90億ドルから2026年3月末には300億ドルへ急増しており、コーディングAI需要が主な牽引役
- OpenAI株は二次市場でプライベート評価額を下回る割引水準で取引される一方、Anthropic株は旺盛な需要が続くと報じられている
1.2兆ドル試算の根拠と出所
フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道によれば、OpenAIとAnthropicの両社に出資するある匿名の投資家が同紙に対し「OpenAIの最新ラウンドを正当化するためには、IPO時の時価総額が1.2兆ドル(約180兆円)以上に達する必要がある」と語った。OpenAIは2025年末に約1,570億ドルの評価額で大規模な資金調達を完了しており、その投資リターンを成立させるには上場後に現在の評価額を大幅に上回る成長が求められるという論拠だ。
この試算が示すのは、OpenAIの現在の評価水準がいかに高い成長期待を織り込んでいるかという点だ。1.2兆ドルという水準は2026年4月時点のAppleやMicrosoftに匹敵する規模であり、AI企業としての先例がない数字でもある。
Anthropicの急成長と「割安」論
こうした高いハードルが議論される一方、Anthropicの年換算収益は2025年末の90億ドルから2026年3月末には300億ドルへと急増している。成長の主な牽引役は、企業がソフトウェア開発を効率化するために導入するコーディングアシスタント分野への強い需要だ。現在の評価額は3,800億ドル(約57兆円)で、OpenAIの評価額と比べると相対的に低い水準にある。
二次市場の動向も両社の対比を鮮明にしている。Anthropic株は二次市場で「ほぼ満たされない」旺盛な需要があると報じられている一方、OpenAI株はプライベート評価額を下回る割引水準で取引されている。この状況から、両社に出資したファンドの間で「Anthropicへの出資がより割安だった」という見方が浮上している。AnthropicはClaude Managed Agentsなど本番AI開発向け製品でエンタープライズ市場への浸透を加速させており、収益成長の持続性に対する投資家の評価も高まっている。

投資家の見方が分かれる理由
こうした状況に対し、投資家の見方は二分されている。ベンチャーキャピタル「Sapphire Ventures(サファイア・ベンチャーズ)」の代表ジャイ・ダス氏は、OpenAIを「AIのNetscape」と評した。Netscapeはウェブブラウザの先駆者として一世を風靡したが、MicrosoftのInternet Explorerに市場シェアを奪われ失速した企業だ。ダス氏はこのアナロジーを用いて、先行者優位が必ずしも持続的な競争優位とならないリスクを示唆した。同氏はOpenAI・Anthropicいずれにも直接出資していない立場からの発言だ。
一方、OpenAIのサラ・フリアーCFOは「1,220億ドル(約18兆円)の資金調達を実現できたこと自体が、投資家からの強い信任の証明だ」と述べ、懸念論を正面から否定した。現時点でOpenAIはAIモデル市場における認知度とユーザー基盤において依然として圧倒的な規模を誇る。
OpenAIのエンタープライズ戦略転換
こうした投資家間の評価の分岐を受け、OpenAIはエンタープライズ顧客の獲得に向けた戦略を急速に転換している。Anthropicが強みを発揮しているコーディングツールや業務自動化分野との競合は激化しており、両社の製品差別化が投資家の判断に直結している状況だ。
AI業界への資金流入は依然として活発だが、今回表面化した投資家の懸念は、高評価額への楽観論に一石を投じるものとなった。OpenAIが1.2兆ドルというIPO目標を達成できるかは、収益成長の継続と競争優位の維持に加え、Anthropicとの競争結果にも大きく左右される。市場の評価がどう収束するかは、今後の両社の戦略展開と製品競争次第といえる。
